フィリピンでの自宅隔離生活
今日は3月末日、自宅隔離生活が始まってからちょうど2週間が経過した。
乾季に入り暑い日が続くフィリピン、例年であれば海や山へと遊びに出かける絶好の行楽シーズンであるが、今年世界中で猛威を振るう新型コロナウィルスの影響はここフィリピンもご多分に漏れず、私の住むケソン州ルセナ市があるルソン島全域では3月17日から4月30日までの間、自宅隔離措置がとられ不要不急な日中の外出禁止及び夜間(午後8時から翌朝午前5時)の外出禁止となり、交通機関は国内線の飛行機、船、鉄道、バス、タクシー、庶民の足であるジープニー(乗合タクシー)、トライシケル(三輪オートバイ )など全ての公共交通機関が止まり、幹線道路では軍、警察の検問所が設置され人の移動が制限されている。
学校は休校、食料品店や薬局、銀行、病院などを除く多くの店舗や事業所も休業となり、私の住む小さなビレッジ内も外を歩く人影はほとんどなく、毎日雀のさえずりが聞こえる静寂さが続く。
ルセナ市では外出禁止措置の間、食料品や日用品、薬などの生活必需品の買い物は地区ごとに外出できる曜日が決められ、さらに買い物に行けるのは役所(バランガイ)が発行した外出許可証を持った各家庭大人1名のみとなっている(子供や高齢者、疾患のある者は外出禁止となっているので、私が電動車いすに乗って一人で買い物に行くことはできない)。
わが家のある地区は毎週月曜日のみ買い物の外出が許可され、近所のモールへ妻が一人で買い物に出かけるが、モールの入り口ではセキュリティーが一人一人の客の体温を測り、37度以上の熱がある者やマスクをしていない者はモール内に入ることはできない。食料品等のグロッセリー売り場では入場制限があり、決められた人数しか一度に買い物ができないから、買い物をするのも順番待ちとなる。モール内で営業しているのは食料品等のグロッセリー売り場と銀行ぐらいであとのテナントは閉まっているから、今は大きなモールへ行っても食料品と生活用品を購入するだけである。
必要最小限の外出と必要最小限の買い物、不便ではあるが現状感染を防ぐにはこうした制限を課すことが最善策なのであろう。
フィリピンに移住してからこのような状況は初めての経験であるが、3月初め頃からマニラの日本大使館から在留邦人向けのメール配信が頻繁に行われ、日々更新されるフィリピン政府の新型コロナウィルスに関する強制措置の詳しい内容や、帰国を望む在留邦人への対応などの連絡が次々にメール送信されてくるので情報が混乱することもなく、冷静に状況を把握することができている。私は普段、パスポートの更新ぐらいしか日本大使館に用事はないが、こうした非常時には大使館からの敏速で正確な情報発信は大変ありがたく役に立つ。
●(フィリピンに自生する)原種蘭の「バンダ ラメラタ」
普段から外出する機会が少ない自分は、今回の外出禁止や自宅隔離措置が始まっても日々の生活に変わりはなく、毎朝庭に出て趣味の原種蘭いじりに夢中になり、昼過ぎからはエアコンの効いた部屋でネットをし、たまに夕方から好きなお酒を楽しむ生活を続けられてはいるが、あと2週間で自宅隔離措置が解かれるのか? それともさらに継続されるのか? フィリピンでの自宅隔離生活はもうしばらく続く……。
フィリピン共和国:ルセナの隠居
【 特集! 介護保険が組み込まれての生活】
今号の特集は、「介護保険が組み込まれての生活」です。65歳(特定疾病は40歳以上)になり、介護保険サービスを優先利用して生活されている方々の経験談をご紹介させていただきます。
[質問項目]
〈1〉介護保険サービスの優先利用が開始して、影響はありましたか?
〈2〉何か影響があったことで、どこかに相談されましたか?
〈3〉総合支援法サービスの上乗せ利用など、何か区市町村に相談されましたか?
〈4〉介護保険サービスの優先利用が開始して、何かみなさんへ伝えたいことはありますか?
〈5〉居宅サービス事業者や相談を受ける側の方々で、何か(差し支えない範囲の)事例はありませんか?
〈6〉他に何かありましたら。
特集 支援法から介護保険への移行について
編集担当者から原稿の依頼があり、私は、作文や国語は苦手ですが、少しでも皆さんのお役に立てればと思い、快くお受けしました。
ところが、私は、パソコンをしません。誰かに入力してもらわないとできません。ヘルパーさんにお願いするつもりでしたが、3月中お休みなので妻にしてもらいました。これで2回目の投稿となります。1回目は2017年8月号166号P3です。自己や暮らし方を載せています。
私の町を少し紹介しますと、市は旧海軍鶉野(うずらの)飛行場跡を観光資源にしようとPRしています。戦闘機紫電改の実物大模型を作成して展示しています。第1、3日曜日に公開しています。不便なところですが大勢の人が来られているようです。北条鉄道法華口駅下車2kmほどです。
さて、ご依頼の介護保険についてですが、65歳になる前に名古屋在住の車いすの大学教授の講演を聴きました。その時は、支援費、介護保険どちらでも選択すれば良いと聞きました。ちょうど65歳になる2カ月ほど前に全国頸損連会報に先輩頸損者が国の担当係長と話し合いされた記事では、国が一言も介護保険優先を言ってないとのことです。各市町との話し合いでするようにとのことだったように思います。国の担当者は、常に自分たちに責任が係わってこないようにという考えがあるようです。
私も65歳になれば、支援法でいけたらと思っていました。65歳まで障害者施設へデイサービスに行っていましたが、65歳になると来られないと言われ、市役所などと話をして介護保険施設で通所できる所をあちこち探しました。なかなか見つからずケアマネを決めてお願いしました。探す中で電動車いすはダメとか、風呂脱衣所が狭いとか、結局隣市の特養のデイのお世話になっています。
重度身体障碍者は、介護施設でも利用が大変です。まして田舎の介護施設で利用できるところは限られてきます。今は、介護保険で週2回のデイと週2回2時間の外出のみの利用です。妻と同居していますので、他の方のように介護保険も多く利用していません。今でも移動支援は月20時間ほど利用しています。もっと利用したいのですが、ヘルパーさんが見つかりません。
私は引き続いて、デイは障害者施設に行きたかったのですが、固く断られたので諦めました。今、介護保険でデイ1回あたり1,763円(食費650円含む)、外出時1時間あたり382円(諸費用の加算含む)、移動支援は1時間あたり231円です。
皆さんの参考になるかどうかは個々に違いますが、以上が私の今の状況です。
兵庫県:T.T.
特集 困ったときは福祉課に相談
〈1〉優先利用により、影響は?
介護保険に入るまで支給されていた交通事故対策センターからの支援がなくなりました。
介護保険では、身体介護の利用時間が少なくなりました。いままで受けていた介護が減りました。
〈3〉何か区市町村に相談は?
市の福祉課に相談して、サービスの少なくなった分は障害者総合支援法(以下、支援法)で助けてもらいました。
支援法の上乗せ利用をしてもらったおかげで、介護保険の利用枠を、今まで買取だった福祉器具のレンタルが使えるようになりました。費用も1割負担ですみ助かっています。
〈4〉何かみなさんへ伝えたいことは?
支援法から介護保険に変わったときは、時間の制限や利用方法でやりにくい面もありますが、ケアマネジャーと相談をしてなんとかやっていけると思います。
以上質問に答えましたが、介護保険に移行しても不足するところがあったら、市町村の福祉課に相談を。
近畿地方:匿名B
特集 不足分は自己負担
50代半ばで自損事故をおこし頸損になった私は、介護保険と障害者総合支援法(以下、支援法)の上乗せ利用による介護給付で生活している。
病院で障害者手帳を作るときに、ケースワーカーから特別疾患のことを聞かれ「脊椎管狭窄症」の治療歴があることを伝えると、「それでいきましょう」と介護保険利用になった。
娘家族と生活しているときは、介護時間も少なく、車いす、ベッド、リフトなどをレンタルして、週3回のデイケアに通っても余裕だった。しかし、生まれ育った田舎で独居生活を始めると、週30時間の介護費用がバカにならない。
現在、介護保険で寝具、リフトのレンタル、週2回のデイケアと残りを介護にまわし、(介護保険で足りない分は)支援法の月60時間たらずの介護給付でまかなっている。一度ケアマネに頼んで、支給時間を増やせないか役所に相談に行ってもらったが、「限度一杯です」と一蹴された。
毎月、それなりの金額になる介護費用のオーバー分は、障害者年金と労災年金をあてて自己負担している。事業者加算が付き消費税が増え、ジワジワと懐を締め付けてくるが、ヘルパーさんの給料を上げるためだと思えばしかたない。
徳島県:M.R.
特集 「介護保険・優先利用」私の場合
障害者総合支援法(以下、支援法)から介護保険に移行して2年近い。訪問浴が週2回、デイサービスが週2回の利用量は変わっていないが、利用料のほうは高くなった。月におおよそ2万5千円前後、ショートステイが加わると3万円を超える(日数にもよるが4万を超える月も……)。
昨年はベッドが故障して直らず、レンタル利用となった。ベッドが月額1,000円、ベッド柵が両サイドで100円である。デイサービスはリハビリが付いていると高くなる。
8年乗っている車いすにガタがきて、「介護保険で補えない場合は支援費で!」との何かの文面を思い出し、支援センターを通して市役所に問い合わせてもらった。市の福祉事務所から県の福祉事務所に問い合わせてくれて、病院の先生とケアマネの意見書と本人の申請書が必要で、会議を開いて決まるとのこと。介護保険の市販品の車いすでは私の身体が悲鳴を上げる……。何とかなるのかな……?
3月初めに2年に1度の介護認定員が聞き取り調査に来た。結果、介護度が要介護2から要介護3に上がった。介護度が上がると料金が値上げになる。してもらうサービスも利用時間も同じなのに……。でも利用時間は増やせるし、特別養護老人ホームの入所も要介護3からならOKらしい……。まさかのときには役に立つかも……。
介護保険にはなったが、支援法の移動支援のほうは月に20時間、今まで通りに使えている。月に2回の1日8時間の外出は、映画を観て、食事をして、買い物をして、いいストレス解消になっている。
ただ、介護保険の場合、半年に1度、サービス担当者会議というのがある。利用している施設、事業所、レンタル会社、ケアマネが、わが家に集まり、私のことでいろいろと話し合うのだが、4~5人も集まると狭い我が家では車いすが自由に動けない~(゜゜)~。
四国在住の介護保険2年生
特集 介護保険導入後の生活
◇心配には及ばない
以前から誌友の一人に障害者自立支援法(2018年に障害者総合支援法と改名された。以下重訪と省略)だけのときと介護保険導入後とではどう違うのか書いてほしいといわれていた。しかしわたし自身何がどう変わったか分かっていない。それでずるずると今日まで来てしまったが、「はがき通信」の読者も65に近いひとが増えてきたことだろうし、179号のMさんの投稿があった(わたしが120号で「迫り来る介護保険の恐怖」を書いてみんなの危機感をあおったのに対し、121号で松井さんから、頸損は今まで恵まれた状態にあったのだから「けい損者は介護保険利用者のリーダに」になるべきだと叱責する文章を紹介している)。責任を果たせという天啓だろう。拙文を弄してみたい。
結論を先にいえば65歳になっても生活はそれまでとあまり変わらない。介護保険だけのひとは1日数時間しか来てもらえないが、頸損など重度身体障害者は、一人きりの時間に痰がからんだらどうするのか、急にバルーンが折れて過反射や失禁に襲われたらどうするのかという差し迫った事情があるので、介護保険のひとより優遇されている。つまり介護保険だけのひとより長くヘルパーにいてもらえる。
わたしの最大の過ちは、65歳になると介護保険1本になると思い込んでいたこと。介護保険優先だが、重訪も併用できる。介護保険というのはおもに加齢による認知症のひとを相手にしているようだ。ただしわたしは大都会に暮らし、他県のひとより特別な便宜を図ってもらっているかもしれない。
◇いよいよ開始
まず「担当者会議」というものが自宅で開かれる。わたしに関わるケアマネはもちろん、ヘルパー全員、訪問看護師、各事業所代表、できれば主治医(来るわけない)、それにサービス提供責任者だったかな、とにかく部屋が満員になった。何が話し合われたか忘れた。ひとによっては介護保険更新のたびにひらかれるという。なお介護保険制度は国家によって5年に1回見直しされる。
重訪のころは1週間前にヘルパーに「来週は休んでください」といえばすんだのだが、こないだそれをやったら、「ケアマネにいってもらえましたか。いまは少しでもヘルパーに空きができると即刻ほかの利用者に回されるんですよ」と叱られてしまった。何事もまずケアマネに連絡すること。それほどケアマネの力は強く、ヘルパーの人材不足は深刻なのだ。
◇重訪と介護保険の組み合わせ
暮らしは今までと変わらない。たとえば何曜日にどのヘルパーが何時に来るかとか。ただわたしの暮らしを支えるヘルパーの労働は2つに分かれる。重訪(これの財源は税金)と介護保険(財源は40歳からみんなが払う介護保険料)だ。
介護保険は最長2時間ぐらいしか働けない。そのつぎの2時間に入るには間を空けなければならない。そこでわたしのばあいは介護保険と介護保険のあいだに重訪をはさんで組み合わせる。なんのことはない書類上の話だから、わたしに苦労はない。ヘルパーは書類作りに大わらわ。
食事作りに関しては、介護保険では家族が同居していると食事作りはしてもらえないことになっているが、うちのばあい家内が毎日残業・常時休日出勤しなければならないほどの激務に就いており、「日中不在」ということでOKになっている。だが、もともと重訪ではOKなのだから、介護保険と重訪の組み合わせの中で、重訪の時間帯に作ったことにすればいい、などと居直らないほうがいい。下手、下手に。世の中なにごとも人情が絡んでくるからね。「何が頼めて何が頼めないか」という微妙な問題も、気心が知れてくればそれほど苦にならない。ヘルパーによって得手不得手があるからそこを見極める。
◇支出と収入
重訪も介護保険も時間数を超えた分は自費となる。たとえば2019年6月のわたしの1割自己負担分は、合計7万830円。内訳は以下のごとし。
(1)介護保険 4万30円
(2)重訪 3万800円
ただし「高額介護サービス費」という制度があって、同じ月に利用したサービスの合計額が高額になり、一定額(3万7200円)を超えた時は、申請すれば超えた分があとから支給される(これは家族が市区町村税を課税されているばあいで、仮に生活保護なら負担はずっと安いようだ。申請は一度でいい)。
(3)自費 1万7250円
(4)それと重訪の時代からあるものだが、外出に同行してもらうと、1時間1000円、自費分は1割だから100円ぐらいかかる。細かくいうと30分刻み)。ところがケアマネに改めて尋ねると、いまは点数だから事業所によって異なるという。なんのことやらわからない。重訪一本の時代はわかりやすかった。
介護保険の利点の一つにレンタルという手がある。重訪だけの時代は高額なベッドもエアマットも自費で買わなければならなかったが、65を過ぎると借りることができる。今わたしが借りているのはエアマットだけ、800円/月)。気に入らなければ取り替えることができる。
新情報。今まではケアマネのプラン作成費は公的負担だったが、これからは個人負担になる。これも1割負担とのこと。介護保険はなにかにつけ審査がどんどん厳しくなっているそうだ。
◇収入
(1)国民年金
これは皆さんご存じだろうが、2階建てといって、基礎年金と、サラリーマン時代に支払っていた厚生年金の額による厚生年金保険がもらえる(サラリーマンじゃなかったひと、たとえば学生で年金保険を払ってなかったひとは基礎年金だけ)。サラリーマンのころは給料明細を受け取るたびに「厚生年金と健康保険料がなければオレもそうとうな高給取りなんだが」と嘆いたものだが、現在医療費はただだから、ともに支払った分をはるかにしのぐ高額をすでに受け取っている。あのころはサラリーマンといえば正社員で、年金・健康保険料も会社が半分負担してくれるは、手続きは経理が全部やってくれるはで、ものぐさなわたしにはじつにありがたい時代だった。いまはみんな「非正規」という日雇いにさせられてしまう。貧富の差はどんどん広がっていくだろう。
(2)福祉手当(これは自治体によって異なる)。わたしが受け取っているのは、
東京都重度障害者手当
杉並区特別障害者手当
杉並区福祉手当
その他、福祉タクシー券・車いす乗車券(年間約7万円)
理髪サービス券(年6枚、1枚あたり6000円、これは自宅出張料。わたしは丸刈りだから理髪料は2100円ですむ)
ストマ(人工膀胱も人工肛門も、ともにストマという。蓄尿袋は重訪のころは無料だったが、いまは若干かかる。人工肛門用は10枚1万円する。
◇補装具・日常生活用具の給付・貸与
重訪のころはよく使ったが、いまは使わない。補装具で肢体不自由者に関係があるのは、車いすと重度障害者用意思伝達装置ぐらいのもの。
◇とにかくふえた証書類
わたしは現況届の類いが大嫌い。障害者になる前はまるで縁のなかった書類を障害者になって手が使えなくなった途端に大量に書けというのは根本的にまちがっているのではないか(紙のアンケート形式だからパソコンでは書けない)。以下に役所から送られてくる主な証明書を列挙する。
(1)国民健康被保険者証
(2)身体障害者手帳(30年前の写真が貼ったままだ)。人工肛門になると手帳が変わる
(3)マル障受給者証、以上3点は重訪のころから持っている物
(4)東京都国民健康保険高齢受給者証、以上4点は病院へ行くと提示を求められるので常に携行
さあここからわけがわからなくなる。
(5)障害福祉サービス受給者証(毎年更新)
(6)介護保険被保険者証(1~3年に1度更新。わたしは要介護5)
(7)介護保険負担割合証(毎年更新、所得に応じる。わたしは1割)
しょっちゅう事業所から「新しい証書来ましたか」と聞かれる。来る月がそれぞれちがうから憶えていられない。「福祉制度」というクリアファイルに放り込んでおき、勝手に探してもらう。「コンビニでコピー取ってきます」というから、家のプリンターを使ってください、カラーで取るときれいに取れますよというとおおいに喜ばれる。最近は証書をスマホで取る事業所もある。
◇生活の変化
最初の担当者会議のときだったか、ひとりで外出してはいけないといわれた。ほんとうは重訪のときもいけなかったのだが、大目に見てもらっていたようだ(そもそもひとりで出かけられるぐらいなら重訪の対象になるのはおかしいという理屈のようだ、よくわからないけど)。でもわたしは今でも不満だ。障害者自立支援法というからせっせとひとりで外出していたのだ。これぞ自立支援だと。1人だと不便なこともたくさんあるが、自立心が養われる。たとえばスーパーに行ってほかのお客さんに「ちょっとそこの豆腐取ってもらえますか」などと声をかける。親切なひともいて、何くれと面倒を見てくれる。心が温かくなる。いまは必ずヘルパー同道で外出しているから買い物のときなど便利だ。もう歳だからひとにものを頼む元気はなく、ひとりレジの付近でリクライニングして待っている。
だがこの方式だとヘルパーの家事の時間が削られル。ヘルパーに忙しい思いをさせて気の毒だ。「どうしてひとりで出かけてはいけないのか」とケアマネに尋ねても、「万一のことがあってはいけないから」という答えしか返ってこない。
もう一つ困った制限がかけられた。リハビリだ。わたしは小樽のUさんのリハビリを見学に行ったり、アグレッシブ・リハのDVDを入手し、できることは真似した。鍼灸師(しんきゅうし)(自費)から教わった健康法も積極的に取り入れ、週2回ヘルパーに手伝ってもらっていた。そもそもはDVDを見て「おれもこういうのやりたいなあ」といったら、当時来ていた青年ヘルパーが「やりましょうぜひ」といってくれたので始まったことなのだが、その青年が家業を継ぐため辞めたあとは、週2回女性にたよるものとなった。アグレッシブ・リハだから介助する女性にはきついもので事業所で問題になったようだが、その様子を見学にきた事業所のひとがえらく感激したこともあって(ほとんどの頸損は寝たきりで自主的に何かするようなことはないようだ)、所長が「マア、マア」と認めてくれたらしい。
さすがにこれはわたしも反省し、やめた。だけど立位をとるために購入した器械(アメリカ製、数十万円)はどうしてくれるのだ。ケアマネは、今まで週2回だったもみ治療のPT(わたしは背中がむちゃくちゃ痛い)の1回をべつの訪問看護ステーションに回して従来どおりのアグレッシブ・リハとすることを提案したので、それで妥協した。
◇何は頼んでいいか、何はいけないか(平成30年度『介護保険利用者ガイドブック』杉並区)による
この規則集は介護保険しかない。以下にほぼ規則どおり掲げる。辛気くさいにもほどがある。覚悟して読みたまえ。
〇対象になるもの(頼んでいいこと)――大別して2つ〈身体介護〉と〈生活援助〉
〈身体介護〉
入浴や排泄、食事の介助など利用者の身体に直接触れる介助等で、本人がおこなうのが困難な場合(排泄介助・おむつ交換、入浴介助・身体の清拭、着替え・体位変換の介助、通院等の外出介助)。要介護度によって料金が異なる(以下同)。
〈生活援助〉
掃除、洗濯、買い物、調理などの家事で、利用者がおこなうことが困難な場合(同居の家族等がいるばあいは、当該家族が障害・疾病等の理由でできないばあい)、利用者が使用する居室等の掃除、利用者の衣類等の洗濯、食料等の生活必需品の買い物、一般的な食事の調理。
その他、訪問入浴、リハビリ、医師の指導による居宅療養管理指導、訪問看護。また通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)。また短期入所療養介護(医療型ショートステイ)というのもあって、このあたりは、家内を夜間のタイコーから解放するのに役立ちそうだが、ある施設に打診したところ、定期的に利用することという条件が付いていた。排便なんかどうするのだろう。仮に1週間として、その間ふだん来ているヘルパーの収入保障はどうするのだろう。ヘルパーはたいてい非正規だから、その間の収入はなくなる。帰宅したらまたヘルパー探しをしなくてはならない。
×対象にならないもの(頼んではいけないこと)
「直接本人の援助」にならない行為や、「日常生活の援助」に該当しない行為、「日常的な家事の範囲」を越える行為は、介護保険の対象にならない。
利用者以外の者の洗濯、調理、買い物。利用者が使用する居室等以外の掃除、来客の応接、自家用車の洗車や掃除、庭の草取り、植物の剪定(せんてい)、犬の散歩やペットの世話、家具の移動や部屋の模様替え、大掃除、床のワックスがけ
はあめんどくさ。それによれば「利用者が使用する居室等の掃除」は頼んでいいことになっている。「利用者だけが使用する」というニュアンスが感じられるが、わたしの部屋は夫婦の寝室兼食堂兼客室兼書斎だ。ここらへんが微妙なところ。ガラス拭きはしないことになっているようだが、ある事業所は「ガラスの内側なら拭きます」という。それはそうだ。タワーマンションの10階の外側なんか拭けない。その他、「観劇」「理容院・美容院」の外出介助はしないとある。
ただしこれはあくまでも介護保険の規則。重訪なら問題はない。重訪でヘルパーが長時間つきそうのは介護保険よりヘルパーに時間的余裕があるからではないか。いちいち細かい規則集が作れないのはそのためだろう。障害者総合支援法で決まっているのは、「重度の肢体不自由者で常に介護を必要とする人に自宅で、入浴、排泄、食事の介護、外出時における移動支援などを総合的におこないます。」だけだ。なんとなくだけれども、今後、外出するほどの元気があるなら、外出は全額自費でどうぞといわれるような気がする。なんとなくですよ。
さてわたしは松井さんから、「頸損は今まで恵まれた状態にあったのだからけい損者は介護保険利用者のリーダになるべきだ」という提案にどう答えたらいいのだろう。皆目見当が付かないが、1つ思いついた。「はがき通信」の仲間には介護事業所を開いているひとが意外に多い。彼らはその道の専門家ではないか。さあ、こんどは君たちの番だ。
最後に一つ。われわれの時代は頸損になれば1級障害者になれたが、今後はそうもいかないとのことだ。安閑とはしていられない。そういえば医療費ゼロも最近はそうでもなくなってきたと福祉事務所から聞いて驚いたのは介護保険の何年も前のことだ。今後ますます厳しくなっていくことだけはまちがいない。
東京都:F川