No.199 2022/3/25
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 『臥龍窟日乗』-80-「台湾有事」ってなんだ 

 「台湾有事」って言葉が、やたら取り沙汰されている。主に政界でかまびすしい。有事とは、具体的には中国が台湾を攻撃するという事態だ。その場合に台日米で応戦しようという共同戦線みたいなものだろう。なんというトンチンカンな妄想か。

 筆者は50年も前から台湾、中国を行き来しているが、中国が台湾を攻略するなんてありえない。日本の政権が、こんなバカげたことを想定しているとしたら、実に外交音痴と言わざるを得ない。中国と台湾のイデオロギー上の対立と、経済上の抜き差しならぬ深い関係をまったく理解していない。

 中国が2012年に、GDPで日本を追い越し、アメリカに次いで世界第2位に躍り出たのは、台湾の協力があったからに他ならない。中国が「世界の工場」と称されるようになったのは、半導体からカップラーメンまで、台湾の超大手企業が、競うように大陸に工場移転したからだ。その台湾を中国が攻撃するなんてありうるか。イデオロギーを超えたしたたかな華僑精神が、両国関係を裏支えしているのだ。

 私は、台湾企業が台湾政府の監視を逃れるように、中国へ工場移転していくのをつぶさに目にしてきた。台湾企業にとってのメリットは、有りあまる労働力と安い人件費だった。建前上は中国入国は禁止なのだが、まず香港に渡り、中国大使館でパスポートを発給してもらう。台湾に帰国の際には、パスポートは香港の旅行業者に預けておく。

 台湾の歴史について、ざっと触れておこう。中国大陸の南にぶら下がった小島が台湾だ。ゾウリムシのような形をしている温暖の島だから、レイシ、バナナ、パパイヤ、マンゴーなどの豊富な果物が獲れる。台湾の存在は、秦(紀元前905年から858年)の時代から知られていた。こんなエピソードがある。始皇帝の妃・楊貴妃がレイシ食べたさのあまり毎年台湾に兵を派遣するが、このレイシ、足が早い。1週間で腐ってしまう。1カ月もかけて持ち帰った腐ったレイシを見た楊貴妃は、毎年、派遣兵を処刑させてしまった。

 台湾島にはもともと先住民族が居住していたが、やがて中国福建省の人々が移住し台湾となった。日本が日清戦争に勝利してから、台湾は半世紀にわたって日本の領土だった。太平洋戦争に敗れて日本が引き上げたあと、中国の共産党軍に敗れた、蒋介石率いる国民党軍が台湾に逃れ、中華民国の新拠点とした。

 もともと台湾に居住していた人々が本省人。民進党の母体だ。これに対して蒋介石とともに台湾に入ってきたのが外省人と呼ばれる。これが国民党の支持母体だ。台湾人は決して一枚岩ではない。

 台湾の古老に聞いた話だが、日本軍が去って国民党軍が乗り込んできたとき、「犬が去って、豚が乗り込んできた」と台湾人はぼやいたそうな。

 私は、中国をGDP世界第2位に押し上げたのは、とりもなおさずアメリカの量販店バイヤーたちだと思っている。日本の高度経済成長を支えたのはアメリカ市場だったが、よりコストの低い台湾に目を付けたのがまさにアメリカバイヤーだった。ところが目敏い彼らは、よりコストの低い中国に色目を使うようになった。危機感を持った台湾の製造業者は、中国への工場移転を考えた。台湾が生き残る唯一の選択だった。製品は中国から欧米に発送し、決済は台湾で行う。台湾政府にとっても異存はなかろう。単細胞な日本の政治家のオツムでは、とても思いつかない巧妙な三角関係が出来上がっているのである。

 「もし中国が攻め込んできたら共に戦いましょう」なんて囁(ささや)かれても、台湾政府は面映ゆいばかりだろう。先のG20の会期中、バイデン大統領と習近平主席が会談している。何かの手違いでミサイル攻撃でもしたら、世界は消滅してしまうという恐怖を正しく認識しているのは、この二人に違いあるまい。

 国際政治の埒外(らちがい)で、「台湾有事」を声高に叫ぶのがいかに愚かしいことか、日本のアホな一部政治家は気付くべきだ。防衛費増大の裏付けとして、「台湾有事」でカモフラージュすべきではない。

千葉県:出口 臥龍




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◇ 瀬出井 弘美 (神奈川県)
◇ 藤田 忠   (福岡県) 
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◇ 土田 浩敬  (兵庫県) 

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