No.197 2022/11/25
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 電動車いすのままの歯科診療 

(60代、男性、受傷後20年+、C5/6)

 私の歯の数は28本。親知らずが生えた記憶はなく、差し歯も入れ歯もない。歯は丈夫なたちである。
 受傷後の歯磨きは妻による全介助である。現在の確立された手順は、タフトブラシ(毛束が1つのヘッドの小さな歯ブラシ)で全ての歯の表裏、糸ようじで全歯間、口内洗浄液でうがい、フッ素入り歯磨き粉で歯磨き、うがいはしない。この13分間、半分背上げしたベッドに、寝転ぶ私に覆い被さる姿勢を妻はとり続ける。妻の腰痛を悪化させる介護メニューのひとつが歯磨きである。
 半年ごとに歯科医院でデンタルチェックをしている。歯科診療台への移乗が問題である。以前の医院では、小柄な女性歯科助手が妻と2人で移乗させてくれた。3人目の女性が腰を引き上げて補助してくれたことはあったが、無愛想な男性院長が手伝うことは一度もなかった。不慣れな方々に移乗を手伝ってもらう場合、妻が主力として期待されるのは無理もないが、腰痛に悩む年齢的にもそろそろ厳しくなってきた。
 訪問歯科診療という制度がある。診療内容が歯科医院でのそれに及ばないとしても、寝たきりで外出もままならない患者には不可欠な制度であろう。しかし、訪問の分が加算された料金は3割負担の身には高額である。以前に一度だけ利用したことがある。院長の座を息子に譲った年配の歯科医師が看護師と共にやってきた。歯と歯肉の境目がへこんでいるところに白いレジン(合成樹脂)を詰めるだけのことである。看護師はその訪問で終わらせることを提案したが、歯科医師は2回に分け再訪することを決定した。私の目の前で話し合うのは、私に聞かれても痛くもかゆくもないということか。その無神経さに絶望したことを覚えている。

***


 新居近くの歯科医院をインターネット検索し、若い男性院長を見つけた。ボランティアで、子供サッカーチームのコーチをしているということなので面倒見の良さも期待できる。初めての電話予約の際、車いすで通院することを伝え、男性院長に抱えてもらう約束も取り付けた。診察室の勝手もわからない初回は介助用車いすで通院した。狭い部屋で、スタッフのご苦労と共に受傷後初のレントゲン撮影にも成功した。診療台横で、後方からの男性院長による上体の引き上げは力強く申し分なかったが、前方から私の膝裏を引き上げたのは妻であった。
 電動車いすで通院し、そのまま診療してもらうことは視野に入れていた。初回通院時に、診療台横の通路としての余裕と診療台後方の電動車いすスペースとしての余裕を確認し、次回は電動車いすのままの診療を試す約束を取り付けた。
 当日の電動車いすのままの診療はうまくいった。診療台周りの治療道具や器具の配置は歯科業界のノウハウの結晶であろうが、私のわがままな申し出はこれを無効にした。診療する側はやりにくかったと思う。院長はじめ、スタッフ皆様のご理解とご協力に心から感謝している。

 福岡県:DRY

 博多便り 博多ポートタワー見学 

(C4、頸損歴37年、70歳、男性) 

 毎週木曜日は、ガイドヘルパーさんとの外出の日だ。しかし、先週は35℃の酷暑で、周囲の人が外出に猛反対したので外出をやむなく断念した。今週はやっと涼しくなり、2週間ぶりの外出となった。今まで行ったことがない所に行こうと迷いに迷って、博多タワーに行くことにした。理由は長年博多に住んでいながら、行ったことがなかったからだ。
 このタワーはとても古い。すでに役目を終えて一旦休館していたが、近年復活し展望台に登れるようになった。
 博多タワーは築港にあることは知っていた。その記憶は、まだ博多の街に市内電車が走っていた時のものだ。市内電車が、築港に寄り道して行く路線を「築港回り」と言っていた。

 話はそれるが、当時、福岡の高校の多くは、自分の高校の卒業生のために大学受験の予備校を併設していた。T高校の卒業生でこの予備校の出身者が、「築港回りです」と自己紹介していたのを思い出す。「築港」、「築港回り」の言葉になつかしさを感じる。
 バス停で、築港方面に行きそうなバスが来たのでそのバスに乗ろうとしたところ、運転手が「これは国際ターミナル埠頭行で博多タワーには行かない」と言う。そして、さらに「博多タワーなんてないよ。それは百道にある福岡タワーのことではないか」とも言われた。「そんなばかな」と途方に暮れていると、親切なバス待ちの人が「博多埠頭行に乗り、終点で降りると博多タワーに着きますよ」と教えてくれた。
 私の記憶している築港は、数十年も前のもので古かった。今は博多埠頭、またはベイサイドプレイスと言うらしい。世の中はどんどん変化している。「築港回り」も、もうだれも知らないだろう。
 タワーの入り口には「博多ポートタワーミュージアム」とあり、博物館にもなっているらしい。博物館は次回に観ることにして、とにかく展望台へ一目散にエレベーターで上がった。車いすだが、すべてバリアフリーで申し分ない。
 眼下には港が広がり、客船がおり、博多湾の島々が見えてたいへん満足した。のんびりできた。

  ●博多ポートタワーの展望台から志賀島方面の景色

福岡県:Y.I.



【編集後記】

 今年は梅雨明けが早かった分、連日の猛暑……本当にきつかった。頸損者にとっては、死亡事故につながりかねない暑さだったと思う。身体が常にだるく、慢性疲労が抜けない。痛みのために、十分で上質な睡眠がとれないので尚更だ。 
 節電をと言われ、換気をしながら冷房を使用することも申し訳ないとは思っていても、自分の命を守るほうが先決になってしまう。 この編集後記を書いているのは10月1日。ようやく朝方は涼しく、秋の気配を感じるようになった。父とニャンコともども、何とか大きく体調をくずすことなくここまで乗り切ることができ、本当にホッとしている。
 4回目のコロナワクチン接種を済ませたが、次はもうインフルエンザワクチンの接種時期だ。今年は、肺炎球菌ワクチンも接種した。
 コロナも感染者数は減ってきてはいるが、完全な終息の目途はたってはいない。むしろ、ヘルパーさんや友人、デイサービスの利用者等々、身近で感染する人が増えた。頸損当事者もチラリホラリ。重度障害者にとっては、まだまだ油断ならない。外出の自粛とマスク生活の日々は続く……。
 地球温暖化の影響もあり、日本の四季がくずれ、だんだんと失われつつある。今年は、どんな秋になるのであろうか? 1年で一番好きな秋に、気分転換を兼ねてどこかに出かけたいものである。 


 次号の編集担当は、藤田忠さんです。

編集担当:瀬出井 弘美


………………《編集担当》………………
◇ 瀬出井 弘美 (神奈川県)
◇ 藤田 忠   (福岡県) 
………………《広報担当》………………
◇ 土田 浩敬  (兵庫県) 

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発行:九州障害者定期刊行物協会
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