アマゾンエコーで妻のスマホに電話する
四肢マヒ者にとって、外部連絡方法の確保は重要である。私の場合、ベッド上の長座位で膝元に電話の子機があればボタンを押せるが、仰臥位ではどうしようもない。
妻のiPhoneで音声入力「ヘイ、シリ」を試したこともあるが、私の声では一度も認識されなかった。仮にうまくいったとしても、緊急時の連絡のためだけの通話契約に出費はしたくない。
アマゾンエコーの音声アシスタント「アレクサ」で、エコーデバイスやアレクサアプリ入りスマホと通話できることを知った。アマゾンエコーに「アレクサ、○○に電話をかけて」と話しかけるだけで、妻のスマホとハンズフリーで会話ができるようになった。
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私がアマゾンエコーを導入したのは、188号「特集! 情報機器(パソコン・スマホ)操作の工夫」を読んでからである。自宅のインターネットとWiFi、妻のスマホと環境は整っていた。
アマゾン・エコードットと、家電コントローラ・ラトックシステムを購入した。音声で操作することで、テレビと照明のオン/オフに活用している。猛暑だった昨年の夏は、就寝中の扇風機のオン/オフに重宝した。
グーグル・クロムキャストの情報には驚いた。それまで、ノートパソコンの画面をテレビに映し出すには、HDMIケーブルで有線接続するしかないと思っていたのに、ワイヤレスで飛ばせるものがすでに市販されていたとは。すぐに購入した。
トラックボールと小型キーボードをワイヤレスタイプに新調し、膝の上に置いたクッション付きトレイに載せて使っている。パソコンとのケーブル接続の制約がないので、電動車いすで自由に動ける。ノートパソコンを置いたテーブルにできるだけ近づいて作業をしていて、クッション付きトレイを置いたまま、膝があたらないところまで後退してティルトすることも、離れた場所に置いた水を飲みに行くこともできる。
福岡県:DRY
188号「特集! 情報機器(パソコン・スマホ)操作の工夫」全身マヒでも子育て~悪戦苦闘~
前号に続いて書かせていただきます。せんのすけです。障害を持ちながらも子供を授かり、育てていくうちに、親のありがたみや大変さを知るようになりました。
子育てってただ育てるだけでなく、一人の人間を社会に出して、生きていけるようにしていかなければならないんだ、とその責任の重さを痛感しています。
ただ、子育ては、楽しくなければならないとも考えています。風呂嫌いの娘を、なんとか風呂に入れようとしたときの思い出話を書かせていただきます。
娘が4歳2ケ月のこと。
歯みがきとお風呂が嫌いで、1歳半くらいから逃げ回るようになっていました。なんとか逃げ延びようと、いろいろ策を練ってくるので、こちらも負けてはいられませんでした。
そこで編み出したのが【ダチョウ倶楽部作戦】です。娘は負けず嫌いで、「いちばん」「かち~」「やった~」
こんな言葉をよく口にしていました。その日も、いつものことながらお風呂に入るのをいやがる娘。どうしても入りたがらない。いろいろ入りたくない理由を言っている。頭をフル回転させているのでしょう。でも僕は大人。まだ知恵比べでは負けません。
「じゃあ、お父さん一番に入ろ」
私が切り出す。
「だめ。お母さんが一番」
妻は、僕の作戦を瞬時に理解してくれたようでした。
「ダメ! わたしがいちばん」
娘は、やはり引っかかりました。そこですかさず僕と妻が、「どうぞどうぞ」と言いたくなったところをこらえて、「じゃあ、誰が一番にお風呂に行くか、よーいドンッ」
と僕のかけ声にすぐ浴室に走る娘。追いかける妻。作戦成功です。元気にお風呂に入ってくれました。
ただ、ダチョウ倶楽部作戦も、3回で効き目がなくなりました。さすがに娘が気づいてしまいました。
そこで、次に編み出したのが【妻を叱る作戦】です。娘がお風呂に入りたくない、と言い出したら、「お母さん、お風呂に入らなきゃダメでしょ!」と前ぶれなく、僕が妻を叱ります。これは急に思いついた作戦なんですが、いきなり母親が叱られたことに娘は戸惑い顔をしました。
僕はそのチャンスを逃さず、
「お母さん、お風呂に入らないんだって。いけないよね?」
と困った顔を見せて、娘に投げかけました。娘は、勢いに負けて「うん」とうなずきました。妻も作戦を理解したようで、話を合わせてくれます。
「お母さんをお風呂に入れて。頼むよ」
僕は娘に依頼。
「うんッ!」
娘は、何か重要なミッションを依頼されたスパイのように、真剣な眼差し。
「ママ、はやく!」
そう言って妻の手を引っ張ります。さっきまでいやがっていたのに、自分から入りにいくなんて……フフッ! 子どもを騙(だま)すのは簡単だぜ!
このあと、お風呂から楽しそうに歌う娘の声が聞こえてきました。ただ、この作戦も3回が限度。4日目には、「あっ! 騙されてる」と気づいたようです。
こんなふうに、悪戦苦闘しながら子育てをしてきました。親が進化すれば子供も進化する。子育ては自分磨きができて、成長もできるんだと実感しています。
せんのすけ
小さなおじさん 其の7
明日の退院準備のため、お袋の妹に来てもらう。荷物は昨日のうちにほとんど持ち帰っていたので、帰りの着替えの準備だけで済んだ。いつものように、2合だけ呑んで早めの就寝。
当日は幸い天候にも恵まれ、渋滞もなく小1時間で到着。「待っていたわ」というお袋を叔母に任せて精算を済ませ、医師と婦長に挨拶を。笑顔を取り繕ってはいるが、出る者には興味がなさそうな態度だった。ここに来るのもこれが最後。こちらも満面の笑みで頭を下げる。
思えばこの入院は、親父のときと同様に2度と我が家には戻れぬ片道切符だったはずが、カロナールの変更が功を奏してたった1晩で退院へと動き出したのだから分からぬものよ。
車椅子2台を積み込み、愛しき我が家へレッツラゴー! 帰りの車の中でお袋が「もう2度と来たくない」と言うのに頷(うなず)き、「もう来ることはないよ」と言ったのだが、それがまさか……。
何が食いたいかと問えば、ケンタッキーと即答。2ヶ月も病院食では恋しくもなろうて。帰りがけに立ち寄って、叔母に買ってきてもらう。この匂い。そういえば以前もここに車を止め、お袋に買いに行ってもらっていたっけ。もう半年以上前だ。
2ヶ月ぶりの我が家に感激する間もなく、新しい玄関に感動するお袋を先に昇降機で上がらせる。1人で歩かれては怖いと車椅子に固定されていたため、つかまり立ちはできるもののすっかりと足腰が衰え、我が家は2台の車椅子が跋扈(ばっこ)することとなった。
昼にはちと早いが温かいうちにと、コーヒを入れて早速ケンタッキーをいただく。うんうんこれが日常ね。などと1人感傷に耽(ふけ)っていると、叔母が「晩御飯どうする? あたし作るの面倒」と現実に戻してくれた。お袋がチキンに貪(むさぼ)り付きながら、「お寿司が食べたい」と言うので出前に決定。お袋と叔母には、奮発(ふんぱつ)してトロづくし。トロの食えぬわしは赤身づくし。にしてもおなごってやつは、食いながら次のメニューを考えられるのだよなと、昔から理解できない生き物だったことを再認識した。
食いながらも、次から次へと病院への不満が続く。メモっていたんかい! というほどに溢(あふ)れてくる。ときどき話が繰り返されはするものの、よほど溜まっていたものと思われる。こうも悪口を言う人ではなかったのだが、この入院でちょっと怪しくなってきたようだ。
毎日これを聞かされるのかな、とちとうんざりするものの、月水金がデイサービス、そして火木土日に片道1時間の面会を続け、運転中の激しい睡魔に危機感を募らせていたところ。限界を感じていた面会から開放されたのだから、それくらいは付き合いましょう。
そして、翌日曜に叔母が帰り、明日月曜の朝から、新しい体制でのお袋とわし2人の生活の始まり始まり。お袋を寝かしつけて、いつものように八海山をぬる燗で2合。気分は祝杯。かんぱーい!
鈴木@横須賀