No.175 2019.2.25
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 ストーマの再手術 

 5年前の夜、お腹がパンパンに張り、息苦しさと吐き気がしたので救急で病院に行くことになった。もう少しで、腸が破裂するところだったらしい。そこでストーマを作ることになった。ストーマとは、人工肛門のことである。ストーマになるとパウチを使用することになる。そうなると臭いのことが心配になった。だが、使ってみると全く臭わない。しかし、(排泄物を受けとめる袋)パウチからたまに漏れて臭うこともあり、応急処置もある。
 ストーマにしてから、週2回2時間の憂鬱な排便がなくなった。また、旅行も2泊3日で帰って来て排便をしなければならなかった。頸髄損傷者は、排泄で多くの時間をとられたりして皆苦労している。排便が楽になったので、長期旅行ができるようにもなった。頸髄損傷者にとっては、ありがたいものである。
 私のストーマは、双孔式といって便の排泄口が2つある。1つがお腹から、もう1つが肛門側へ。特に、私は肛門側に便が流れやすく、2か月に1度は摘便をしなければならなくなった。せっかく楽になったのに。摘便後は血圧が下がり、貧血が酷くなり起きられないほど辛い。
 それで、肛門側の排泄口を閉じる手術をすることに決めた。A病院では、できないと断られて落ち込んでしまった。B病院に相談に行くと、なんと受け入れてくれることになった。その外科医のO先生は、とても優しく辛さを理解してくださったのである。入院日も、マリちゃんの都合のつく日を聞き入れてもらえた。こんな優しい先生に出会えて本当に嬉しかった。本当に凄い先生だと思う。
 手術は1時間程度で終わり、ストーマの大きさ形も変わらず上手にできていた。
手術前日、麻酔医のU先生から全身麻酔の予定だと聞いていたが、翌朝U先生が来て腰椎麻酔に変更することになったという。理由は、肺活量が少ない私が全身麻酔だと自立呼吸ができなくなる可能性があると説明してくれた。麻酔医の先生が一晩考えてくださったのだ。医療は、チームで行われているんだなぁと思った。患者の状態を安全を、一番に考えていることがわかった。
 入院中は、看護師さんたちにも大変お世話になった。全介助が必要な私の入院は、看護師さんたちにとっても大きな負担になったことだろうと思う。忙しいときに、ハンディーテレビの固定に必要な箱を探してくれた担当の看護師さん、優しく接してくれた看護師さんたちにも深く感謝。
 今では辛さもなくなり、安定した日々を送ることができている。
 私の担当医だったO先生はじめ麻酔医のU先生、看護師の皆様本当にありがとうございました。

神奈川県:M.I.

 徒然介護日記 

C3-4、受傷歴10年、67歳

 徳島での独居生活も6年が過ぎると、お世話になったヘルパーさんはざっと数えても50人近くになる。最初から関わってくれている人は1人しかいない。とにかく入れ替わりが激しい。1日来ただけ、という人も何人かいる。
 私への介護は身体から家事まで多種雑多で時間にも余裕がない。曜日によっても入る時間によっても違ってくるので慣れるまで日数がかかる。もちろん慣れて余裕ができてきたら仕事を増やすので、ゆっくり世間話をしたり愚痴を聞く間はない。ほとんど走り回っている。
 やっと覚えてくれた人が辞めていくときのせつなさと寂しさ、新しい人に教える喜びと出会いの嬉しさ。受傷するまでは機械しか相手にしなかった私が、受傷後はたくさんの人に支えられながら、自分の物差しでしか相手を測れない性格に後悔する生活をしている。
 若い娘さんを泣かせたこともある。22~3歳の介護福祉士のMさんは何度教えてもリフトを使っての車椅子移乗が覚えられない。可愛い人だったのでしばらくは根気良く教えていたが、あまりに酷いので「覚えられないのなら他の人に変わってもらいます」と言ったら、涙流して頭下げられた。「頑張ります。もう少し使ってください」と。
 このMさんなかなかの「てんねん」で慣れてきてそろそろ料理も作ってもらおうと思って「得意な料理はある?」と聞いたら「ラーメンが作れます」と言う。それはまた面倒なものを、と思ったら「サッポロ一番」と言う。「野菜炒めに挑戦してみる?」と私が調理方法と材料を言うと「ピーマンの皮はむくんですか?」と言う。私は呆れて「むけるものならむいていてみな」と返す。鮎の塩焼きを食事介助してもらっていたら「魚の目が私を見てる」と言う。頭を取ってもらったら「羽は食べるんですか?」と聞く。魚のひれを羽と思っているらしい。「小学校で何を教わってきたの?」と聞けば「教えられてない」と言い張る。そんなMさんに2年ほどお世話になり辞めていく最後の日に「ハグしてくれる?」とお願いしてみたが拒否られた。
 30代男性介護福祉士のYさんは汗っかきだった。あがり症だったのだろう、食事介助の時は指が震えていた。布団の上に汗が落ちるのは常で、酷い時は食事の中に落ちそうになるので鉢巻をしてもらった。最初に入った時、ズボンの裾を引きずっている。ささくれて埃がまとわりついているように見える。「良い大人がだらしない」と思い「ピンで止めるとかどうにかしたら」と注意したら、次の時には安全ピンで留めている。「針と糸はないんかい」は腹に収める。髪の毛が伸びて汗で濡れて光っている。あまりに気持ち悪いので散髪するよう注意する。2回言っても聞かないので出入り禁止にする。断りの電話を管理者にしたら「よく今まで辛抱してくれましたね」
 私の厳つい顔と愛想のなさに緊張するのだろう、50代女性のTさんは確認のため冷蔵庫から持ってきた豚丼の具が入ったタッパーを床にぶちまけた。床がフローリングだから良かったが、その日はレトルトカレーになった。還暦近くになると図太くなるらしく、女性ヘルパーのNさんは「小学生でも3回言えば覚える」と言えば「オバさんは何回言っても覚えない」と返してくる。
 30代女性ヘルパーのMさんは入って最初の頃、部屋の隅に立って「なんでもおっしゃってください。何でもしますから」と礼儀正しい。「それじゃ、キスしてください」と言ったら「それは別料金です」と言う。今では一緒にお昼ご飯を食べるぐらい気安くなっているが、別料金を払う仲ではない。
 徳島生活を始めたころお世話になった男性介護福祉士のAさんは、短髪で身長があり威圧感のある人だった。夕方のケアが終り帰って10分もしないうちに戻ってくる。何か忘れ物でもしたのかな?と思ったら「あまりに月が綺麗だったので見せてあげたくて」とカーテンを開けてくれる。20代男性と見る秋の月はにじんでいた。
 いろんな人にお世話になり、なっている。おふくろの味に思わず「美味しい!」と言ったらドヤ顔した人。私の講演に同行して涙流した人。子育てしながら一生懸命生きている人。そして私に生きる力をくれた人。「パソコンって何ですか?」から始まり、CDの開け方が分からない人。ディスクの裏表が分からない人。BDレコーダーとオーディオの違いが分からない人。スーパーに買い物に行って買ったものを忘れてくる人。金時豆をお願いしたら生の豆を買ってくる人。2度と食べる気がしない料理を作る人。
 横浜から徳島に帰ってくる時、ケアマネージャーの申し送りで介護の人は若い女性にしてください、とお願いしていたのに、始めてみれば3割の男性と、私より歳上の人が何人か。お世話になっているんだから無理言えないよな。どちらかと言うとわびしくなりがちな独居生活もいろんな人と触れ合えるから楽しい。蒼い空が見え、美味しいものが食べられる日々がありがたい。

徳島県:M.R.

 膀胱ろうカテーテルのズレ防止 

C5、頸損歴12年、54歳

 頸損受傷から3ヶ月後に膀胱ろうを造る手術をしました。
 当時使っていたカテーテルは、肌にやさしい粘着力が弱いテープでおなかに留めてもズレることなく、ミリメートルの目盛りがついていてカテーテル挿入の深さを一定に調整することが容易にできるものでした。
 それから12年が経過するなかで、数回、カテーテルの種類が変わりました。
 それらの中には、不透明でカテーテルの内側に付着するカスが見えずに不便なものもありました。不評を訴えて使用期間は1年ほどで終わりました。
 基本的には技術的な進歩によって改良が加えられるのでしょう。
 形状はカフ(バルーン)から先端までの長さが段々と短くなっていきました。
 また、素材が柔らかいものに変わっていきました。
 残念ながら目盛りがついたものはなくなりました。
 現在使っているものはフランス製で、先端が詰まりにくい工夫がされているとのことで、泌尿器科の医師が自慢げに話します。
 現在のカテーテルを使うようになってから、自律神経過反射の症状が発生する頻度が多くなりました。その原因がわかるまでには時間がかかりました。
 カテーテルをおなかに留めるテープは週2回の入浴後に貼り替えます。その際、カフが膀胱壁に引っかかって止まるところから目測で3cm程度カテーテルを奥に挿し込んでからおなかにテープ留めしてもらいます。
 ある日、自律神経過反射の症状が出たので、いつもどおりにカテーテルのねじれや蓄尿バッグの逆流防止フィルム弁の折れがないか確認してもらいましたが、正常でしたので様子を見ることにしました。そのとき、ついでにカテーテルの深さを確認してもらったところ、余裕がまったくなく、カフが膀胱壁に引っかかって止まっている状態になっていました。
 その後も調子が悪いときに確認してもらうと同じ状態になっていたことから、自律神経過反射の原因がこれであるとわかりました。
 泌尿器科の医師に「カテーテルをテープで留めてもズレるので困っている」と言うと、「カテーテルの材質がシリコンになったので一般的なテープでは粘着しないんじゃないかなぁ」との不親切な返事でした。
 早速、amazonでシリコン粘着テープを探して購入し、現在、それをカテーテルに巻き付けて貼り、その上に重ねて従来のテープでおなかに留める方法であんばいを見ているところです。
 膀胱ろうを造られている皆さんの中で、同じようなことで困ったご経験はありませんか?

【自律神経過反射】

 自律神経過反射は、頭痛、発汗、顔面紅潮、鼻づまり、鳥肌、徐脈(心拍数が1分間に60回以下と少ないこと)などが起こり、原因を取り除かないと最高血圧が200mmHg 以上にもなり、脳内出血など生命に危険を及ぼす状況となります。
 脊髄は自律神経の大切な「通過路」であり中枢的な役割も持っています。自律神経過反射は、第5、6胸髄より上の脊髄損傷者にみられる自律神経障害です。腹部の内臓を支配する交感神経は第5、6胸髄と第2腰髄から出るので、第5、6胸髄より上の損傷では、何らかの原因で交感神経の過剰な興奮を生じた結果、腹部内臓の血管が収縮して著明な血圧の上昇を誘発します。

<自律神経過反射で起こること>

 何か“身体に良くないこと”が起きる。例えば、尿の溜めすぎや便秘です。その状態により、身体が脊髄を介して脳にメッセージを送ります。
 そのメッセージは、脊髄を損傷しているので脳へ伝達されません。痛みも感じません。
 脊髄へのメッセージが、自律神経に伝わり、その自律神経が、足やお腹の血管をきつく収縮させます。
 この収縮により他の場所の血管に余分な血液が押し流されることで血圧が急に上がります。
 脳に近いセンサーが血圧の上昇を認識して次の3つの信号を送って、血圧を下げようとします。
〈1〉 心臓にゆっくり拍動するようにはたらきかける。これが徐脈です。
〈2〉 顔、首、胸から損傷レベルより上の血管に伝わり、その部位の血管が太くなり、より多くの血液が流れます。これが、顔面紅潮(顔が赤くなる)です。
〈3〉 足やお腹の血管に収縮を止めるよう伝えようとしますが、脊髄損傷(通過路が遮断された状態)のために伝えられず、血管は収縮を続けて血圧は高いままになります。

◎引用文献:自律神経過反射の対処法(別府重度障害者センター 看護部門 2015)

札幌市:戸羽 吉則

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