はがき通信ホームページへもどる No.157 2016.2.25.
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 ストーマ(人工肛門)造設への決断 



 考えてみれば、「膀胱ろう」も人工膀胱であり、私は長年“ウロストミー”だったわけだが、そんなことを意識したことはなかった。Kリハ病院で急性期のうちに、損傷レベルからそんなものかと記憶にないほど、ベッドサイドでポンと開けられてしまった。尿路ストーマというより、頸髄損傷者の尿路管理のひとつという認識だ。
 だが、人工肛門は違った。決断までに4年近くかかった。いつの間にやら育ってしまった痔核があったので、訪問看護師さんに出血しないようにトイレで排便介助をしてもらっていたが、うっ血して肛門から飛び出した痔核はまるでザクロのようで痛々しいと……(感覚があったらさぞかし痛いのだろう)。肛門内に“完納”できなかったり、完納するのにも時間がかかったりする。その後、ボラザGという軟膏を注入。ただ、翌日には、だいたいきれいに肛門内に納まっていた。
 夏の暑いときも真冬の寒いときも、トイレでお腹を押してもらいながら格闘。私は、いわゆる“腸内洗浄”という方法で、トイレで週2回排便をしていた。外で失禁することもなく、便の量的にも問題はなかったが、下剤量が増えてゆくのが不安だった。「出なかったら……」という心配から、どうしても減らせない。心がけて水分も摂らないと便が出にくい。
 便が出てもガスが出ないと、お腹が張って苦しい。排便日の前の日くらいから吐き気もする。なので、排便当日は、ほとんど食事が摂れなかったりする。故向坊さんが「はがき通信」に“ガス腹”の投稿をされていた記憶があるが、その当時の向坊さんは確か50代。そのときは、何気なく読んでいたが、まさに悩めるその年代が私にもやってきたのだ! 最初は痔を治そうかと肛門科専門のクリニックも受診したが、痔を治したところで果たして根本的な解決につながるのか……?
 そんな折り、乳ガン検診で毎年夏に受診している自宅からほど近い病院の外科医に、「ここの病院で人工肛門ってつくれますか?」と尋ねてみた。「つくれるよ。手術時間は1時間くらいかな」地域密着型の本当にこじんまりとした病院だが、ドクターの回答から外科医として人工肛門をつくるということは、特別難しいオペではないのだなという感触を得た。
 まずは、腸の検査を受けることにしてみた。3D画像で映し出される最新のCT検査だ。消化器系の検査は辛いと聞いていたが、この検査も前日から検査食に合わせて造影剤、下剤を服用し、検査当日は可能な限り排便し、紙オムツでガッチリガードをして降りしきる雨の中、いざ病院へ。それでも、残便が残っているということで再検査になりかけたが、同級生に外科の外来のナースが勤務していて彼女がドクターにかけ合ってくれて、処置室で浣腸を入れて残便を出してくれた。彼女のお陰で検査が無事にできて助かった。心から感謝!
 検査結果は、ガンなどの病変はないものの(痔は映らないらしい)、「とにかく腸が長いね〜」だった。女性のほうが長いそうで、それにしても長いらしい。マヒした腸管が、きっと長年の間に伸びきってしまったのだろう。
 ドクターのちょっとせっかちな(?)性格なのか、「入院はいつから? 単孔式(注:排泄口がひとつのストーマのこと)でS状結腸も切除するよ」S状結腸の切除は、一番腸捻転やガン化、巨大化しやすい場所であることから、予防的意味を含めて切除する希望を伝えてあった。結腸に造設される場合、“コロストミー”と呼ばれる。結腸を切除するので(後で聞いたところによると20センチほど切除したらしい)“永久ストーマ”となり、もう元に戻ることはできない。肛門は残っているので、腸の粘液等が排出されることはある。結腸切除のデメリットを尋ねたが、「手術の時間が長くなるだけ」という回答だった。
 そして、昨年の10月26日入院、28日オペ(腹腔鏡による)が決まった。
 その病院の入院患者は外科と整形がメインで、病棟も3階のみ。いわゆる皮膚・排泄ケア認定看護師はいないが、ストーマ患者が多いらしく、病棟に「ストーマ担当」のナースが2名いた。なので、ナース全員がストーマの扱いやそれなりにストーマに関する知識を持っていたことが、何よりも幸運だった。病院は、近いにこしたことはない。海側の病室で、小さい頃から見慣れた海の風景が入院中、心を癒やしてくれた。
 F氏からは、「排便を週2回にしているからそういうことになる」とご指摘をいただいたが、私が人工肛門に踏み切り、腹をくくれたのは、両親の高齢化だった。もし両親に何かあったとき、「今日は排便日」と言っている場合じゃないだろうというのが、一番大きかったように思う(F氏にそのことを伝えるとご自身の経験からもお詫びの言葉をいただきました)。
 入院したその日の昼食から絶食だった。聞いていなかったので、「朝ご飯をしっかり食べてくればよかった〜」と後悔した。オペ後を含めて5日間は、絶食だっただろうか。入院後のうわさに聞いていた、2リットルの下剤を飲むのもけっこう辛かったし、その後の失禁に次ぐ失禁も……。人工肛門を造設するのに重要なことのひとつに、「どこにつくるか?」がある。オペ前に、ドクターを交えて車いすに座った状態でマーキング。看護師さん、看護助手さんは頸損の扱いには慣れていなかったが、お年寄りの入院患者が多いせいか、皆、やさしく親切だった。オペ後に熱は出したが、その後は順調に、流動食から段階的に常食にまでなって16日間で退院。退院前に、ストーマ業者との話し合い、日常生活用具のストーマの助成を受けるには、障害者手帳の書き換えも必要。それは、市の担当者が良い方で、退院と同時に手続きを完了。
 人工肛門とはどんなものか……? 私は、Iさんのオペ後すぐのストーマから、現在のストーマまで拝見させていただいていたので、自分のお腹のストーマを見たときも驚きはなかった。オペ後はむくんで5センチ大だったストーマも、今は、その半分くらいの大きさになった。週2回、訪問看護師さんにパウチ(蓄便袋)交換してもらっている。病院から、往診医に医療情報の紹介状も書いてもらった。市内にストーマ外来のある病院もあるが、今のところ受診していない。お小水の出が良くなったのは、大腸でも10%水分が吸収されるので、それがお小水として出ているからかなと思う。
 ピンクがかった鮮やかな赤色で、Iさんは「ウメボシ組」と言っている。退院不安は大きかったが、そこは何とか乗り切れたように思う。最初は、こんなに便が出るのか!?というくらい便が出た。私は、ベッド上で自分で廃棄するので、それだけで疲れた。オシッコ・ウンチ両方である。今は、ビオスリー等で調節して、ようやく日に1〜2回になった。パウチの向きは試行錯誤して、今は真横に装着している。
 ストーマ装具はパウチがメインだが、その他いろいろな周辺のアクセサリーがある。衛生材料も含め、メーカーにもよるが、お金をかけるとキリがないところがある。自分に合った装具を探すのに、意外と時間がかかる。ストーマ1年生の私も、まだまだ試行錯誤、いろいろ情報を得て勉強中だ。
 人工肛門にしてよかったか? どんな方法にも、メリット・デメリットがあるとしか言いようがない。お腹の張り、吐き気はなくなった。下剤も不要になった。痔は、肛門を使わなくなったので、自然と小さくなってゆくだろう。ガスも良く出る。失禁の心配はない。漏れや臭い、肌トラブル、パウチ交換等のケアの問題を除けば人工肛門は楽だと思う。
 ただ、ストーマは、意外と私にとってカワイイヤツである。ツンツンしても感覚はない。ガス抜きしているときにオナラをされると、腹が立つが(笑)。ビールより、炭酸飲料のほうがガスがパンパンにたまる。パウチの中でウンチまみれになっていると、可愛そうになってくる。これから一生のお付き合いなので、死ぬまで元気でいてほしいと願う(何だか変な親心気分 笑)。

神奈川県:H.S.



 排泄Ben奮闘記 

頸損歴27年、C3〜5不全、♂75歳

 昨年11月で頸損歴27年になりました。
 が、学ぶこともなく、生活全般を支配されて苦労しているのが相変わらずの排泄です。
 「はがき通信」にこのテーマで寄稿するのも3回目くらいでしょうか……。最近の通信では153号で熊本市のK.I.さん、155号で東京都のヒロシさんが同じ悩みを書いておられます。私も、最近特に行動の阻害要因となっている排泄について書いてみます。
 まず排尿については、離床中はユリドームを装着し、就寝中は左側臥位で尿器を当てて対応しています。なお、通信147号の改造尿器のその後については後日紹介したいと思っていますので、ここでは排便について書きます。
 サイクルは月・水・金の週3回。前日21時にセンノシド錠(製品例プルゼニド)を4錠服用します。当日10時10分、ホームヘルパー1名(介護保険&障害福祉)と訪問看護ステーション看護師1名(医療保険)によりベッド上で始まる。
 通常、グリセリン浣腸液120ccを1個、60ccを3個使います。最初は多量のガスが出るのみでもったいないので120ccの1/3を注入し、しばらくして残りをいっぺんに注入します。60ccはおのおの1/2ずつ注入しますが、その間隔は概ね10分。
 看護師は、必要に応じて摘便や指刺激を交えながら浣腸液を注入。ヘルパーは温水で温めたタオルを腹部に当てたり、浣腸液を温めたり、腹部をマッサージしたりして排泄を促します。マッサージは鳩尾(みずおち)のすぐ左下あたりが一番効果があり、私の“セーノ”の掛け声で押してもらいます。出Benは、前半型・後半型・中休み型と多彩(笑)ですが、透明な浣腸液や粘液が出たからといって安心して終了というわけにはいきません。
 これの一番厄介なのはガスです。こいつが途中にあると浣腸液の浸透を妨げ、終了判断を誤る元凶のようです。側臥位(そくがい)なので息みに力が入らないので念力(笑)を用います。これは、目をつむり息を吸って止め、鳩尾から腰骨の内側のBenセンサーと思しき部分に波動を送ることをイメージします。疲れますが、案外効果があるんですよ、これ。
 終了は、健常体と違ってスッキリ感がないので、介助者のアクションや情報を基に心身の折り合いをつけ踏ん切りをつけます。訪問看護ステーションの医療保険適用時間は1時間30分で、超過すると30分に2,000円の延長料金の負担が発生するので極力そのあたりが所要時間の目標になります(延長料金は事業所の任意規定)。
 こんなに涙ぐましい努力をしても、Benちゃんは気紛れです。車イス上でいきなり暴れ出し、慌てて車輪を押し下げてプッシュアップ! ヘルパー派遣を要請してしばらくケ・セラ・セラ……。ケアプラン外のことで、職員をやり繰り調整して、遅くても30分以内には駆けつけて処置してくれます。このときばかりは“神様仏様ヘルパー様”です。
 同時に、介護離職者0政策をしたいんなら介護職の賃金upで一気解決じゃないの?と、いっこうに進まない処遇改善に苛立ちも覚えます。Benちゃんの気紛れは、排泄当日がほとんどですが、一昨年で20数回、昨年はなぜか7月以降だけに集中し、13回も暴れました。これでは安心して外出なんて……です。
 27年間もいじくり回されて、肛門内も過敏になっていることは容易に推測でき、そのせいか、常に不快な違和感というか便意と同じ感覚が支配していて、その強弱が外出予定日のドタキャンにつながります。
 Benちゃん関連の薬としては、他にガステール錠を毎食後、マグラックス錠を朝夕食後に服用するくらいですかね。後は、毎日ヨーグルトを食べることと動かない身体をなるべく動かすように心がけることです。
 何だか取り止めのない内容になりましたが、私のBenちゃん奮闘記でした。ありがとうございました。

佐賀県:K.N.

●改造尿器 http://www.normanet.ne.jp/~hagaki-t/pcc147a.html  
●悩める排便 http://www.normanet.ne.jp/~hagaki-t/pcc153a.html 
●排便の悩み http://www.normanet.ne.jp/~hagaki-t/pcc155a.html  



 イギリスの障害者に対する「ヘイトクライム」について 


 みなさま
 「はがき通信」に時々お邪魔させていただいておりますT大学看護学部のS.Hです。みなさまにとって2015年はどのような1年だったでしょうか? 私は2015年の1月から10月まで、オックスフォード大学の研究員としてイギリスで過ごしていました。講演会、学会、セミナーや研究会に参加するため、イギリス国内のあちこちに行っていましたが、今日は、私が以前留学していた英国リーズ大学障害学センターが主催したカンファレンスについてご報告させていただけたらと思います。リーズ大学の障害学センターに関しては、145号に「リーズ大学障害学センターへの留学」としてご紹介させていただきましたので、よろしければ、ご覧下さい。
 このカンファレンスは、「刑事司法制度における障害者の平等と人権」というテーマで、警察関係者や司法関係者とリーズ大学の障害学の研究者、障害当事者が集う会合でした。重要なテーマの1つとして、障害者に対する暴力がとりあげられていました。
 イギリスでは「ヘイトクライム(hate crime)」のターゲットとして、障害者が暴力の被害者になることが多いと認識されています。「ヘイトクライム」とは、障害者に限らず、人種や性的指向、宗教や民族といった個人がもつ特徴に対して、偏見からくる憎悪をもって攻撃する形の暴力を指す言葉です。多民族国家イギリスでは、偏見や差別に関して自由に議論できる雰囲気がある一方で、ヘイトクライムも少なくないという状況があります。
 1日のカンファレンスの発表の中で、最も衝撃的だったのは、壮絶ないじめの末に死に至った知的障害者の事例をいくつもあげて、障害者に対するヘイトクライムは深刻な人権侵害だと報告した研究者の発表でした。この研究者によると、知的障害者に対する暴力は、残虐性が高いところに特徴があるということでした。つまり、暴力を振るっていた側が、知的障害者を尊厳のある人間として見ていなかったのではないかと思われるということです。また、加害者が重刑を科されない例が少なくないことから、裁く側にも、障害者の生命を軽視する傾向があるのではないかという指摘がありました。
 こうした暴力は、障害者は生きている価値がないというメッセージを社会に対して送り続けてしまいます。これにどう対処したらいいか、会場からは、子どもや若者たちだけでなく、司法関係者に対する教育プログラムも必要なのではないかという意見が出ていました。
 私は、この「ヘイトクライム」という言葉を、深刻な物理的な暴力のみを指すのだと勝手に解釈していました。無意識のうちに、上述した‘死に至らしめるほどのいじめ’のような行為を想像していたのです。しかし、カンファレンスでの議論を聞いていて、これが実際は、もっとずっと広範囲の事象を含む言葉だということがわかってきました。
 たとえば、殴る蹴るの暴行や性的虐待、言葉による攻撃が含まれているのは当然ですが、ともするといたずらとされて軽視されてしまうような行為、たとえば、電動車椅子のコントロールレバーを勝手に動かしてしまう、電動車椅子のバッテリーをとってしまう、視覚障害者の杖を蹴るなども「ヘイトクライム」です。あるいは、施設や病院で不必要な薬物を投与する、失禁したおむつを換えないで放置する、移動手段として使用している車椅子や補助具等を取り上げて移動できない状態にさせるという虐待行為も「ヘイトクライム」です。また、そこに住むのが抵抗できない身体障害者だと知った上で住居に侵入し強盗をする、障害者用駐車スペースを占拠するなどの行為も「ヘイトクライム」とされています。加害者は、養育者や施設従事者、雇用主に限定されず、友人やクラスメイト、面識のない者も含まれます。
 ただ、イギリスでも「ヘイトクライム」の定義について、議論があるようです。この日も、深刻な暴力に関する報告があった一方で、会場からは、障害者に対する暴力のすべてを「ヘイトクライム」と呼ぶべきなのかという疑問が出されました。「ヘイトクライム」は直訳すると「憎悪による犯罪」という意味です。強く感情に訴えかける響きをもつ言葉ですが、「ヘイトクライム」の中には、若者のいたずらの延長線上にあるような行為も含まれています。イギリスには、こうしたいたずらまで、「ヘイトクライム」と表現するのは適当ではないという意見をもつ人もいるのだそうです。
 これに対して、参加していた司法関係者は、非常にはっきりと、いたずらに近い行為も「ヘイトクライム」と呼ぶべきだと答えていました。もちろん「ヘイトクライム」といってもその暴力性の深刻度に違いはあるが、個人のもつある特徴に対する攻撃は、憎悪という強い言葉で表現されるべきだということでした。この回答に迷いがなかったことに、私は少し安心しました。加害者も被害者も周囲の人たちも、それを暴力として認識していないような場合こそ、深刻な状況になるまで気づかれないのではないかと考えるからです。
 日本でも、2015年の年末には、前年の障害者虐待被害者数が2,703人にのぼったと厚労省の発表がありました。スタッフによる虐待で、老人ホームの入居者が死亡したというニュースもありました。こうした虐待の加害者を、特殊な暴力的人間として批判することは簡単です。しかし、看護師としていくつかの病院や施設で働いて来た経験からしますと、暴力への誘惑はすぐ身近にあり、いつでも、誰でも加害者になる可能性があるのではないかと感じています。自らの加虐性に気づくことが、ヘイトクライムを減らす第一歩です。少しずつ、学生たちにも話していけたらと考えています。

東京都:S.H.

●リーズ大学障害学センターへの留学 http://www.normanet.ne.jp/~hagaki-t/pcc145a.html 
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