はがき通信ホームページへもどる No.153 2015.6.25.
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 『臥龍窟日乗』 —メニューについて— 


 若いときに飲食店向け専門誌の編集部に出入りしていた。編集長というのが寿司屋にものすごい偏見を持っていて、「寿司屋てぇのはなー、客のカオを見て値段を決めんだよ。だから寿司職人には犯罪者が多いんだ」
 と口癖のようにまくし立てていた。〈お好み〉で寿司を食うと聞いただけで、腰が引けていた私は、ハァそんなもんかいなと気にもとめなかった。
 最近わが家に入るようになったヘルパーさんに、実家が寿司屋だという人がおられる。失礼かなと思いつつも、永年の疑問を尋ねてみた。
 「中傷ですよ、それ」ヘルパーさんはややムキになって言った。「寿司ネタというのは、大トロとか中トロとか、ブロックごとに小分けするんですが、大トロのなかでも脂ののった部分とそれほどでもない部分ができるんです」
 「ふむふむ、なるほど」
 「その違いが分かるお客さんかどうか見極めて、分かる方にはいい部分を握って差しあげるし、細かそうな方には無難なところをにぎるんです。だから昔の江戸前寿司には値段を書いてなかったでしょ」
 そう言われれば、昔、寿司屋にメニューはなかった。木の札に筆書きしたネタを壁面にかけてあるだけ。客はその札を眺めながら、
 「おっ、今日はカンパチが入ってるね。そいつを握ってくれ」
 なんてあんばいだった。ネタの仕入れ値は、その日の相場だから札に書くわけにはいかない。いちいち値段の気になるやつは、寿司屋になんぞ出入りするなという雰囲気もあった。かの編集長どのも、無粋な田舎者だったのだろう。
 ヒトの悪口を書いたのであるから、自分の失敗談も記さねばなるまい。
 高校生のときだった。郷里の従妹が修学旅行で東京に来たというので、母とふたり本郷の旅館に会いに行った。その帰り、腹が減ったので何か食おうということになった。だがその当時、本郷は薄暗い街で飲食店が見当たらない。たった一軒、寿司屋の提灯が目に入った。
 なぜか、ためらう風の母を尻目に、いきおいよく引き戸を開けた。なかは狭くカウンター席だけがあった。他に客はいない。いちどは食ってみたいと思っていた大トロを頼んだ。脂身が舌の上でとろけるようだった。
 緊張が解けたせいか、いくぶん余裕がでた。店内をぐるりと見渡したが、ネタの板書きはあれど値段が書いてない。恐るおそる「これいくらですか」と訊くと「一人前2000円です」と返事があった。
 なにか天文学的な数字を聞いたような感じがした。買ってもらったばかりの『広辞苑』初版が2500円だった。厚さ10センチもある国語辞典だ。現在の第六版が8000円だから、いまの感覚でいうと大トロひとつ6400円くらいということになろうか。母の顔をのぞくと恐怖におののいている。
 「あっいけねぇ。カバン忘れてきた」
 とかなんとか適当に言いつくろって、こそこそと店を退散した。まさに田舎モン丸だし。親父の野郎、さぞかしせせら笑っていることだろうと、悔し涙にむせびはしなかったものの、帰りの電車では母も私も押し黙っていた。
 いらい寿司屋に行くことはあれど、(自前で食うときには)決して止まり木には座らないようにしている。
 さて本題。ここでいうメニューとは「お品書き」のことだが、メニューなるものができたのはいつごろだろうか。そんなに昔のことではないだろう。立派なメニューを客に見せることは大変なことなのだ。注文があるかどうか分からない値の張る食材でも、仕入れておかねばならない。
 昨今では、鮮魚の物流や冷凍技術の発達で、魚の鮮度が保たれるようになってきた。マグロも大漁のとき大量仕入れしておけば、安定供給ができる。回転寿司に行けば堂々と値段を表示してあるし、日によって値段がかわるということもない。旬を外れたネタをメニューに載せてあるのも、年がら年中お出ししますよということだ。回転寿司こそ、まさに冷凍技術の産物だと思うのだが、いかがだろうか。
 

千葉県:出口 臥龍


 頸損と介助犬(その3) 


 5月になって、介助犬候補とのマッチングをした際に、まず最初に感じた率直なところは「なんだ、できることが少ないな」ということでした。ラブラドールレトリバー種として期待していたことでの「ペットボトル(紐を付けて細工をしていない)」の持ち運びやキャップをくわえている等のリクエストは、全く採用されずでした。
 そうなると、私の不満と疑問は1つです。デモンストレーションのような、決まりきったことしかできないくらいのクオリティーなのだろうか?と。私自身が介助して欲しいと思う部分がクリアできない。その上に関係者の一人からは、「犬はツールの一つに過ぎない」と発言されたことを受けて「それならば、犬は必要としない」と私はこれからの犬との訓練を止めようと思いました。介助犬が家にいる暮らしを待ち望んではいましたが、その環境に関わる人間の「上から目線」や「やってやる的」な態度には腹がたちました。
 そうです、不全とはいえ頸損に介助犬は真に必要か? このモヤモヤとした疑問に私自身には、答えを見いだせない状態は変わらないものでしたから。確かに実績として頸損の方がいらっしゃることは存じており、それ故に私も具体的に踏み込めたことも事実です。ですが、その反面で世間で言われるようなワーキングドッグとしての良い面だけではなく、チョイ悪ドッグの例(仕事をしない)例も存在していることも知っていたので、実際の候補になっている犬との合同訓練を目前にしての迷いや不満、ストレスはピークになっていきました。
 何が自分の生活に必要であり、意義があるのか?を考えながらの進行は、正直なところ気分がスッキリとしないものでした。
 (以下、続く。)
 

東京都:K.S.



 ★★★ ひとくちインフォメーション ★★★ 


 ◆ 障害乗り越え免許取得 田辺市出身の古屋さん

 和歌山県田辺市新庄町出身で下半身が不自由な古屋祥宏さん(44)=京都市在住=が自動車の運転免許を取得。このほど、車いすのまま運転席に乗り込んで運転できる福祉車両で帰省した。「車を運転するのが長年の夢だった」と話す古屋さん。ドライブを楽しんでいる。
 古屋さんは16歳の時にバイクの交通事故で頸椎(けいつい)を損傷。後遺症による重度の障害で下半身が動かなくなった。


●車いすのまま運転できる福祉車両に乗る古屋祥宏さん(和歌山県白浜町で)

 25歳の時に障害のある知人との出会いがきっかけで京都市に移住。現在、その知人男性が理事長を務める障害者の居宅介護事業を行うNPO法人なごみ(京都市)で働いている。
 2013年10月、京都府の公安委員会や京都市にある自動車学校と折衝を重ね、福祉車両を用いて教習所で運転を習うことが可能になり、半年かかって苦労して免許を取得。その後、福祉車両を購入して「車を運転したい」という二十数年来思い続けた願いを実らせた。
 車はワンボックスカーで、福祉車両を製造する専門メーカーが改造を手掛け、特注の電動車いすに乗ったまま車体後部から運転席に乗り込める。
 指が不自由なためハンドル操作は、運転席左側に取り付けられている棒を手首や腕を使って左右に動かし、運転席右側にあるレバーでブレーキやアクセルを操作する。関西では今のところこの1台だけで値段は約800万円という。
 古屋さんは「周囲の協力で障害があっても車を運転して出掛けられるようになった。努力すれば夢を獲得できることを知ってもらいたい。重い障害で車の運転を諦めている人に、このことを知ってもらって励みになればと思う。僕と同じような思いの人があれば応援したい」と話している。
(情報提供:平成27年5月4日 紀伊民報)









【編集後記】


 今年の「はがき通信」懇親会は、10月に横浜で開催予定です。懇親会も早や20回目、20年の歳月を数えました。たくさんの出会いと思い出とともに、悲しいお別れも数多くありました。そんな懇親会に第1回目から一度も欠席することなく、参加してきました。「皆さんにお会いしたいから」の一念で参加し続けて来られましたこと、改めて感謝申し上げます。  
 さて、前号の特集の「冬の体調管理法」のひとつになるかと思いますが、私が1年365日続けていることがあります。それは“うがい”です。自宅にいるときは、毎食後3回くらいガラガラとやっています。うがい薬など使わず、ただの水道水です。なるべく喉の奥のほうでうがいをするようにすると、透明なタンが必ずと言ってよいほど出てきます。
 そのお陰かはわかりませんが、ここ3年は風邪を引かず、熱も出しませんでした。五十路に入ってから今までは起こらなかった(経験したことがない)ことが身体につぎつぎと起こり、更年期年齢も重なって心身ともに完全に“守り”に入ってしまった気がします。40代の頃までの無頓着さがまるで夢のようです。「長引く風邪」「39度以上の熱を出す」というのもそうで、毎日・毎食後のうがいを始めてみました。私的には、効果ありと思っています。手洗いも毎日、念入りにするように心がけています。
 加齢とともにいろいろと不調がちな身体ですが、うまくつきあいながらやり過ごすしかないのかもしれません。
 次号の編集担当は、戸羽吉則さんです。
 

編集担当:瀬出井 弘美





………………《編集担当》………………
◇ 藤田 忠  福岡県 E-mail:stonesandeggs99@yahoo.co.jp
◇ 瀬出井弘美  神奈川県 E-mail:h-sedei@js7.so-net.ne.jp
◇ 戸羽 吉則 北海道 E-mail:toba@blue.ocn.ne.jp

………………《広報担当》………………
◇ 麸澤 孝 東京都 E-mail:fzw@nifty.com

………………《編集顧問》………………
◇ 向坊弘道  (永久名誉顧問)

(2015年2月時点での連絡先です)

発行:九州障害者定期刊行物協会
〒812-0054 福岡市東区馬出2丁目2-18
TEL:092-292-4311 fax:092-292-4312
E-mail: qsk@plum.ocn.ne.jp

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