はがき通信ホームページへもどる No.144 2013.12.25.
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 特集 20年間の人工呼吸器生活 

C1.C2、受傷歴20年

 20年前に長男のSは交通事故により、人工呼吸器を装置せざるを得ない重度の頸椎損傷(C1.C2)を負った。
 小学校に入学して間もない事故でした。雨天に道路横断中、車に跳ねられ10m以上も飛ばされたにもかかわらず外傷はほとんどなし……しかし頸椎の損傷はさけられませんでした。事故現場の目撃者の通報と救急車が近くにいたことが幸いし、すぐ近くの病院に搬送されたため、脳へのダメージはほとんどありませんでした。
 しかし長男はあの事故以来、首から下の機能麻痺はもちろん、自発呼吸すらできない体となりました。
 当時、人工呼吸器を付けて在宅生活をするということは、全く考えられない時代でした。受傷後1年が経ち病院の転院も難しい中、運よくたまたま妻が以前勤めていた病院に移ることができました。転院して半年後ぐらいから外泊を何度か体験し、そして以前通学していた地域の小学校に復帰することに挑戦することを目指しました。
 当初は病院から学校に通うことから始め、1年〜2年ぐらいずっと私が朝の登校の送迎を済ましてから出勤をし、妻はその後学校に待機し授業中も教室で息子のそばで介助をしたりして付き添っていました。
 ただそうした長期の24時間の付き添い看護は、体力的にも精神的にも非常に大きくのしかかり限界に近い状態でありました。特に学校での付き添いは痰吸引のいわゆる医療的ケアーのことがあり、学校側の援助ができない大きな壁がありました。この痰吸引という行為は、人工呼吸器装置者にとっては最大のネックであり、在宅をしている現在でも大きな問題を抱えている悩みの一つです。(この痰吸引の件、特にその法改正と現状の問題点等については、はがき通信広島懇親会の初日の発表会で、新潟県から参加されたHさんが詳しく報告されていましたので、機会があれば報告を期待しております。)
 当時、人工呼吸器を付けた重度障害児が、地域の小、中学校に通学するという例は、全国的にもあまり例がなかったように思います。現在でもこのような厳しい現状は変わっていないのではないかと思われます。
 当時、県内の障害を持った家族の方々から、いろいろな問い合わせや相談などがありました。そんな中で私たち家族が、何か特別なことをしたということはなかったのですが、呼吸器装置者等の重度障害児の通学には、3つの大きな欠かせない要因があると思います。

 (1)学校側の取り組み(痰吸引等の医療行為、その他の責任回避の問題など……)
 (2)家族の介護力、地域のサポート体制
 (3)本人の意欲、熱意……

 この3つの条件がクリアーできなければ、長期にわたる小、中、高の通学は困難ではないかと思われます。私たち家族からの体験からするとこの3つの戦いであり、息子からすると3つに支えられたからこそ、高校まで普通校に通い卒業できたのだと思います。
 中でも(1)の学校側の痰の吸引については、医療行為なのでどうしても親の付き添いが常時必要になります。そしてもしも呼吸器の管が外れたり故障したら、即人命に関わることなので学校側は当然責任回避を主張します。当然の主張です……そこで私たちが挑戦したのが人工呼吸器からの離脱だった訳です。いくら息子が学校に行きたいという意欲があっても家族が行かせたくても、自発呼吸ができないままであれば、もしもの故障か何かが起きれば、3分で取り返しのつかない大きな事故となります。
 これをクリアーするためには離脱の訓練しかないのです。離脱といっても頸損C1のレベルでは医学的に不可能と言われています……そんなとき出会えたのが「はがき通信」の会をお世話されておられた松井先生でした。
 先生は離脱に向けてのいろいろなリハビリの方法や、カナダからわざわざアイリィーン先生を日本に呼んでいただき呼吸器離脱のお話を聞かせていただきました。そのかいあってだんだんと呼吸器を外せる時間が長くなり、5分が10分になり1時間、3時間、5時間……ついに昼間はほとんど呼吸器を外せるまでになりました。
 こうなると学校側も生命の危機はなくなったので、後は痰吸引の問題のみとなりました。そのころ私たち家族は今度は介護疲れという壁に突き当たりました。特に妻は学校にも行って痰吸引のためにだけ待機を強いられる生活に強いストレスを感じ、うつ状態を繰り返すようになりました。学校の担任の先生はそんな家族の状況を察知して、自ら痰吸引の方法を主治医のドクターに会い、痰吸引のやり方を習って、なんと学校内では全て先生方で痰吸引をしていただきました。「S君(息子)がいるから、このクラスはまとまっているの」といつも言われて、S自身もクラスの子供といつも笑顔で話し、学校が楽しくてたまらないといった、そんな小学校生活でした。痰の吸引を学校側でやってくれるだけでも私たち家族の負担はかなり軽くなります。1時間余りの痰吸引の指導を受けただけでしたが吸引に関する問題や事故は全く皆無でした。もしも痰吸引に関しての事故が起きれば、責任問題になりかねないリスクを負ってまで関わっていただいた学校の先生……その行為には感謝してもしきれないものがありますが、そこまでしていただいたのは息子Sの学校に行きたいという熱意で、呼吸器の離脱に挑戦したことと、私たち家族がこのままでは破滅するということを察してのことだったように思います。




 中学校ではまた大変な事態や高校の通学……そして妻の死……今の在宅の状況……これからの呼吸器生活などいろいろあります。
 20年前の息子の事故以来、全ての生活が一変しましたが、「はがき通信」の方々や息子を取りまくさまざまな方々との触れ合いに感謝しております。
 本当に人生いろいろですね! いろいろな情報を交換し合いながら、明日に向かって精一杯生きていきましょう〜!!

広島市:S.K.(父)



 特集 吸引問題考その2 

56歳、C4、頸損歴20年目、人工呼吸器、電動車イス使用

 吸引問題考は、「はがき通信」No.80(2003.3.25発行)に投稿しています。ちょうど10年後に同じテーマで投稿することになりました。つまり、問題は解決していないのです。本稿は、今年のはがき通信懇親会in広島の1日目に人工呼吸器使用者の話をするように御依頼を受けて、作成〜発表した原稿を基にしています。

 ◇問題〈1〉吸引等のできるヘルパーさん不足の問題

 昨年の4月に法律ができて、一般にヘルパーさんでも研修さえ受ければ吸引ができるようになりました。こう言うと、一見いいことのように思えますが、それ以前には在宅の障害者は、かかりつけ医の1時間程度の座学と訪問看護師からヘルパーさんへの1時間ほどの実地指導で、吸引してもらえるヘルパーさんを確保できていました。昨年3月までにこれだけを行なって県に事業所から登録を行なったヘルパーさんは、経過措置のヘルパーさんと言われています。
 一方、昨年4月からは、かかりつけ医の座学の部分が、県が社会福祉法人等に委託する2日間9時間の第三号基礎研修に変わりました。問題は、第三号基礎研修がどこの県でも年3回程度で、しかも新潟県の例では募集は7月1回でほぼ定員一杯になってしまうことです。結果として、事業所もその利用者の吸引のできるヘルパーさんを容易には確保できなくなってしまいました。
 私の例で言いますと、昨年4月に事業所を立ち上げるときに、経過措置のヘルパーさんを7人確保したのですが、9月までにその内3人が主に自己都合で退職してしまいました。欠員補充に困ってしまったのですが、幸い私の訪問看護ステーションの理解を得て、そこの看護師さん一人がヘルパーとして入ってくれて、その後、第三号研修修了のヘルパーさん一人ともう一人の看護師さん一人が入ってくれて、ようやく自分だけの分は確保できました。
 事業所を起こしたそもそもの動機は、重度の障害者に対応できるヘルパーさんを増やしたい=つまり吸引や経管栄養ができるヘルパーさんを増やしたいでした。今年の第三号研修には、3人のヘルパーさんを確保したので、10月くらいからようやく他の利用者さんに廻せる体制になりそうというところです。
 全国で問題になっているのは、吸引等をできるヘルパーさんを確保できないということです。県によっては研修があまりに少ないので、経過措置を続けていいというところもあると聞きますが、どこの県かはわかりません。以上が、第1の問題点です。

 ◇問題〈2〉吸引自体の問題

 次に、吸引自体の問題として、吸引が気管カニューレの内までで、それ以上奥に入れてはいけませんと規制されてしまったことです。そもそも気管カニューレ内だけの吸引で十分という人はどれほどいるのでしょうか? 現場の実態を知らない人の発言力で決まってしまったのかもしれません。現場では、この規制を守ってしまう=特に大きい規模の事業所のヘルパーさんがいて、結果として患者さんの痰が十分引けず肺に貯留して、その先の部分の肺が虚脱する無気肺になって入院した例があることを聞いています。すべての例で安全であろうとすれば厳しい規制になってしまうことでしょう。


●スピーチされるHさん(写真上)

 結果として、吸引をできる資格はあっても、きつい言い方ですが、実際には役に立たないどころか、入院する患者さんを増やしてしまうヘルパーさんを養成していることになります。今必要なのは、患者さんの入院を増やさないために気管カニューレの内までという制限を撤廃することはもとより、さらにスクイージング(胸郭を圧迫する方法)やタッピング等の排痰技術を普及させること=つまり規制緩和です。そして、吸引の具体的方法は現場に任せるべきです。

 ◇最後に

 今回の懇親会で、問題〈1〉の第三号研修が当初医師会に委託されて、研修費が10万円にもなって実質研修できず、今年になって患者団体が関係する機関が委託を受けて研修費を2千円にしてようやく研修を受けられるようになった県があることを聞きました。このように、吸引問題は各県で相当温度差のある問題になっているようです。そこで、皆さんにお伺いしたいのです。上記問題〈1〉、問題〈2〉は、皆さんのところではどうなっていますか? ご回答は私なり、「はがき通信」編集担当宛てなりにお寄せくださいますようお願い申し上げます。(2013年10月29日記)

新潟市:T.H.


<特集!「はがき通信」懇親会in広島2013> 


 <その2> 今号の「特集」は、9月27日(金)〜9月29日(月)に開催された広島懇親会です。親睦を深め励まし合う目的で年に1度、仲間が一堂に会する懇親会のことはもとより、2日目の自由行動での(バリアフリー情報も含む)観光や道中について情報交換のためにご投稿をご紹介いたします。





 2013年 はがき通信懇親会in広島 会計報告 



※紙面版のみ掲載


 実行委員・会計担当:Y.O.



 特集 はがき通信懇親会広島大会を終えて 


 はがき通信広島大会にご参加いただきました皆様、ありがとうございました。このたび実行委員をさせていただきましたが、とても楽しい充実感のある3日間であったと思います。
 1日目広島市まちづくり交流会館で開催されました広島大会、たくさんの方々にご参加をいただき『人工呼吸器で自立生活をされている方々より』大変貴重なお話を頂戴いたしました。自立生活をする上での問題点や法律の問題点、各自治体での扱いが違う問題点などたくさんの意見や様子をお聞きすることができました。
 その後、スポーツトレーナのU本先生による『血流を良くする為』のマッサージ方法を教えていただき、皆さんも日頃の生活の中でも簡単にできるリハビリとして参考になりました。
 (独)自動車事故対策機構様(ナスバ)より、介護料取り扱いが始まったころはダメだった申請が、今ではいろいろな方法や書類の集め方次第で再申請をすることが可能であり、申請がOKになるケースもあること、そしてご参加の皆様が地元にお帰りになられて、同じ頸損者に相談を受けられたときに話題としてお伝えいただければというお話を頂戴いたしました。またナスバ広島主官所様には当日、会場設営から撤去までお手伝いをいただきましたことをご報告いたします。
 もう皆さんもお腹が空いてきた夕方、宿泊のホテル、ANAクラウンプラザホテル広島でレセプションを開催いたしました。広島の実行委員若手のT本君の司会、当日しゃべりっぱなしのT実行委員、宴会中もしゃべりまくり、SAXまで吹いてしまう暴挙に……(笑)。



 でも皆さん楽しくお食事・おしゃべりされていたように思います。しかし楽しい時間は早く過ぎてしまうもので、9時お開きになりました。
 2日目の旅行に関しましては東広島西条の酒蔵、宮島へのBBQクルーズ、そして自由散策など、皆様よりご感想を投稿していただけるものと信じておりますので省略いたします。
 3日目は広島市まちづくり交流会館にて瀬出井さんの司会進行で開会いたしました。内容としては吸痰の各地域での格差やグレーゾーンの取り扱いなどの問題、I重度障害者センターのその後、各地域での医療、リハビリの問題点など意見交換をいたしました。これから私たちが取り組んでいかなければならない問題点や対処しなければならない問題が少しだけ見えてきたのではないかと感じました。
 来年のはがき通信懇親会は東京での開催となることを確認して全ての日程を終了いたしました。
 最後に、広島実行委員として、行き届かなかったことも多々あろうかとは思いますが、それは次回につなげるとして、私たち実行委員も楽しみつつ充実した会になったのではないかと思っております。これはご参加いただきました皆様のお力だと思います。本当にありがとうございました。では東京にバトンタッチしましょう。
 

広島頸損ネットワーク 会長
 広島県:K.T.

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