Ⅰ.はじめに
疾病や障害を抱え在宅生活を継続するには、退院後の生活を考えた病院看護職のケアや退院指導が重要と考える。カテーテル関連尿路感染症(Catheter-associated Urinary Tract Infection,以下CAUTIと略)は、尿道にカテーテルを挿入あるいは留置することにより発生する尿路感染症である。本研究では、在宅での感染予防の実態把握とCAUTI予防のために必要な教育・指導について明らかにすることを目的とし、退院指導の効果的方法を検討する。
Ⅱ.対象と方法
CAUTIのハイリスクがあり、感染予防に高い関心が必要な高位脊髄損傷者(損傷部位は頸椎4〜6番、ほぼ完全四肢麻痺者)を対象に選択した。「基本的属性」「排尿管理方法」「尿路感染症の罹患の有無と頻度」「感染予防ケア」「感染予防教育」に関する自記式質問紙調査票を作成し2004年8月から9月に調査を実施した。データ処理はExcelを使用、単純集計、クロス集計および統計解析を行なった。
Ⅲ.結果
1.回答者の基本的属性と排尿管理方法:
表1 基本的属性と排尿管理方法
性別
|
男性:14名 女性:2名
|
調査時年齢
|
平均45.2歳(最高61歳,最低34歳)
|
脊損経過
年数
|
平均19.1年(最長32年,最短8年)
|
在宅期間
|
平均14.8年(最長29.5年,最短6.3年)
|
排尿管理
方法
(複数回答)
|
間欠(自己)導尿:3名
膀胱瘻:6名
膀胱留置カテーテル:3名
自然排尿:3名
その他(タッピング):3名
|
2.尿路感染症罹患の有無とその頻度:これまでに9割強が尿路感染症に罹患しており、頻発するか否かで二分化された。表2の通り対象者を「希少群」と「頻発群」に分類する。
表2 尿路感染症の罹患頻度
尿路感染症の罹患頻度
|
人数
|
希少群(6名)
|
なし
|
1
|
1〜2回
|
5
|
頻発群(10名)
|
4〜5回
|
1
|
数えられない(慢性化)
|
9
|
3.尿路感染症と関連要因:尿路感染希少群と頻発群の2群間の比較で示す。また、5%の有意水準でχ2乗検定を行なった。
1)脊損経過年数:希少群の平均は18.7年、頻発群は20.3年で、分布のピークは希少群が10〜15年、頻発群は20年以上であった。希少群は頻発群に比べ、短い傾向を示す。
2)排尿管理方法:希少群は間欠(自己)導尿と膀胱瘻が2名ずつ、その他が1名ずつで明白な差はなかった。頻発群は膀胱瘻による管理が最も多く、1/2を占めた。膀胱瘻と間欠(自己)導尿、自然排尿は両群間で明白な差を示すが、統計的な有意差は示されなかった。
3)感染予防ケア:膀胱洗浄は、希少群で「必要時実施」「中止した」が多く、頻発群では「定期的実施」が40%と多く、現在の実施の有無では、2群間での膀胱洗浄実施頻度に統計的な有意差はなかった。陰部洗浄は両群とも「定期的実施」が多く、希少群では2/3、頻発群では60%を占め、明白な差はなかった。水分摂取量は両群とも2000ml以上摂取者が大半を占め、希少群では2/3、頻発群は80%であった。2群間で統計的な有意差は示されなかった。
4)感染予防教育:感染予防の指導を受けたことがある人は14名、そのうち85%が看護師による指導を受けていた。「尿の混濁」「多量の水分摂取」は14名全員が指導を受けた。「定期的な膀胱洗浄」が最も少なかった。「尿の混濁」の観察は全員が実施し、85%が「水分摂取」を実践している。「定期的な膀胱洗浄」「残尿を少なく」の2点は実践者が半数以下で、最も少なかった。指導項目数は希少群の全員が7項目以上であり、頻発群では7項目未満が4割を占めた。分布の差はあったが、有意差はなかった。一方、実践項目数では2群間で統計的な有意差があった。希少群は頻発群より実践項目が明らかに多く、頻発群は実践項目が少ない側に分布していた。尿路感染症の罹患頻度と実践項目数に有意な関連性が示された。
Ⅳ.考察
間欠(自己)導尿は留置カテーテルに比べてCAUTIリスクが50%ほど低いと指摘され、本調査でも尿路感染罹患なしは間欠(自己)導尿者のみであった。導尿による排尿管理が必要な場合、まず間欠(自己)導尿が可能か否か検討する必要がある。しかし、本対象のように四肢麻痺では、介助者の確保が必要であり、大半の在宅者はその確保が困難である。ゆえに、介助の手間を省くことが可能な留置カテーテルに依存せざるを得ないのが現状である。
膀胱瘻は尿路感染症発症率が低いとされる。しかし、本調査では膀胱留置カテーテルと比べても尿路感染症罹患頻度に明白な差はなかった。CAUTI予防効果は定まっていないとする指摘もある。排尿管理方法として、カテーテル留置を選択した場合、尿路感染症に対する予防策を講じることが必要である。
先行研究によると長期留置では尿路感染症が100%発症しており、定期的な膀胱洗浄は感染予防に有効ではなく、本調査でも定期的実施者は半数以下であった。慢性の尿路感染症は容認し、急性増悪の要因となるカテーテルの閉塞予防を目的に実施することが望ましい。また、尿量の少ないときには尿中の細菌数が多いため、水分摂取は細菌を洗い流すという意味で重要な感染予防ケアである。尿量が確保されていれば、閉塞も防止され、膀胱洗浄実施の必要性は低くなると考える。
陰部洗浄は罹患頻度別実施頻度に明白な差はなかった。先行研究では、酸性水や石鹸を使用した陰部洗浄は尿路感染に有効であると指摘する。ゆえに、尿路感染症の罹患には実施方法もその頻度とともに重要である。在宅では石鹸と湯(流水)による方法が一番安価で簡便であり、奨励される。
本調査で有意な効果を示したのは実践項目数の多さ、つまり感染予防に関する関心の高さである。これは、退院指導は在宅で実践可能な方法での教育を重視することの必要性を示唆している。
先行研究で尿路感染症の予防効果があるとされた膀胱洗浄、陰部洗浄、水分摂取などは本研究では統計的な有意差はなかった。ただし、本結果は対象が17名と少なく、統計的な検定には若干無理がある。
Ⅴ.結語
本調査結果より、以下の知見を得た。①尿路感染症の罹患ありは、回答者の9割強で、そのうち頻繁に罹患する、または慢性化している人が最も多く、約6割を占めた。②尿路感染希少群は頻発群に比べ、脊損経過年数が短い傾向を示した。③頻発群は希少群に比べ、膀胱洗浄の定期的な実施者が明らかに多かった。④膀胱洗浄実施の有無は尿路感染の罹患頻度に有意差を示さなかった。⑤陰部洗浄は両群とも定期的な実施が多く、実施頻度と尿路感染症罹患頻度には有意差を示さなかった。⑥両群とも1日2000ml以上の摂取者が大半を占め、水分摂取量と尿路感染罹患頻度には有意差が示されなかった。⑦尿路感染予防の指導を受けたことのある人は回答者の約9割を占め、そのうちの85%が看護師からの指導を受けており、感染予防教育において看護師は重要な役割を担っていることが示唆された。⑧指導項目の数では、希少群では項目数が頻発群よりも多い傾向にあった。⑨希少群と頻発群において、有意差を示した尿路感染症の関連要因は実践項目の数であり、頻発群では実践項目が少なく、希少群では多かった。
国立看護大学校4年:A・H
『私の嫌いな10の言葉』(中島義道、新潮社、1200円)を読む。「おまえのためを思って言ってるんだぞ!」というのは実はおまえのためでなく自分がイヤなんだろうと、大人の吐く言葉の裏にひそむ偽善を摘発する。いろいろな言葉を10集めた本かと思ったら、すべて同じテーマで貫かれている。青少年の理論武装に好適の書。
母親を嫌悪している。割れた鏡のような鋭い感性を持っている中学生が、居心地の悪さを抱きつづけながら大人になり、「戦う哲学者」になった。論争しようと思っても相手がいさかいを避けようとして笑顔でごまかしてしまうので、お互いに誤解を抱きつづけ問題が解決しないというところがたしかに日本社会にはある。
個人語という言葉が頻出。借り物でない自分の頭脳や感覚から出た言葉をないがしろにし、紋切り型の世間語を話す大人を攻撃する。痛快な本だが、しかし「おまえのためを思って言ってるんだぞ」とひとが言うとき、そこに自分のためを思う偽善が混じっているとしても、やはり半分ぐらいは相手のためを思っているのではないだろうか。著者の挙げるケースは説得力にあふれているけれども、さて自分がその場にいあわせたらなかなか著者のような勇気ある行動はとれないのではないだろうか。
著者は人間や世間を信じている。でなければ、銀行の駐輪場のテープ放送がうるさいと行員にクレームを付けたり、喫茶店のお客の携帯電話がうるさいと店員に注意するよう申し込むなどという行動はとらない。ふつうはそんなことしたってムダだと考える。
もう一度読まなければよく理解できない。ドイツ語をやったひとにしては文章が平易で読みやすいため、難しい内容のところもすらすらと通り過ぎてしまう。
新書判上製、本文42字詰め15行200余ページ。小学校の卒業記念プレゼントにいい。
校正担当:藤川 景