はがき通信ホームページへもどる No.91 2005.1.25.
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 「脊髄損傷に伴う異常疼痛に関する実態調査」についての
ご協力お礼と結果報告
 

脊髄C6・7・8・T1・2・3、非外傷性損傷(腫瘍)不全、激痛持ち

 昨年、ほぼ1年をかけてわが国における脊髄損傷者に発症している異常疼痛に関する実態調査が「日本せきずい基金」の調査プロジェクトとして実施されました。調査作業は「脊損痛研究会」の有志によって行われました。この調査の出発点となったのは、痛みを持つ脊損者18名の実情と体験をできるだけ詳細に確認してみる予備調査でした。その結果からは、痛みを抱える脊損者の悩みが厳しい割には脊髄損傷医療において、痛みに関する対処がほとんどなされていないという懸念を否定できませんでした。運動麻痺や排泄障害などは誰の目にもわかり、それに対する治療やリハビリの効果も他の人からも具体的に確認できると言えます。しかし、痛みや異常知覚は主観的な面もあるので、本人以外はよくわからない、というところがあります。医師やナースからさえ、「麻痺しているから痛くないはず」などと言われたり、「気のせい」や「詐病」扱いされることもあります。脊損仲間からは「根性がない」などと言われ引っ込んでしまうこともあります。
 そこで、わが国における脊髄損傷者のうちで、どの程度の方々が「痛み」や「異常知覚」を抱えており、それはどんなものであり、それへの対処としてどのような治療や工夫が行われているのかを調べてみようということになったわけです。このような調査は過去において医師やリハビリ関係者によって関連施設を中心とした小規模な試みはなされてきましたが、患者サイドから、全国規模での調査としては行われたことはありませんでした。痛みの本当のところは患者自身しかわからない面もあるという点で、患者サイドからの情報を整理してみることがどうしても必要です。そのような問題意識から、「日本せきずい基金」の調査プロジェクトとして、「(社)全国脊損連合会」の協賛も得て全国規模の大量集計ベースのアンケート調査を実施する運びとなりました。アンケート回答数は1666、有効回答で1659という規模での調査は、世界的にみてもサンプル数は最多の規模と言えます。このアンケートには、「はがき通信」の皆様からも多くのご協力を得たばかりでなく、編集委員の瀬出井弘美氏には多大のご協力とご尽力をいただきました。この誌上を借りて皆様にお礼を申し上げ、調査内容の簡単なご紹介をさせていただきたいと思います。(その報告書冊子は、「日本せきずい基金」の事務局から無料頒布されている。またその全内容は同「基金」HPに昨年12月半ばにUPされている。冊子をご希望の方は「基金」のほうに連絡すれば送ってもらえるはず)

【調査結果の概要の紹介】
●調査の方法
 最初、脊損の痛みというものがどのようなものか基本的なことを把握するために痛みを持つ20名の方を対象に予備調査を行った。その結果、対象者を拡大して調査を行う必要を認め、もう少し全国的に規模を拡大して、痛みに関心のある脊髄損傷者114名にアンケート調査を行った。さらに、脊損者における疼痛発生率と痛い人、痛くない人の違いを可能な限り明らかにすることに主眼をおいて、痛くない人も含む全国的な規模での調査へと発展した。
 その結果、受傷経過後長期にわたる慢性期脊損者の知覚異常の実態をかなりの程度明らかにすることができたと考えられる。回答者の内訳で、50歳以上、受傷後長期経過者、対麻痺者の割合が相対的に多いアンケートになったが、クロス集計解析で年齢、受傷年代、受傷経年、麻痺部位に関して、統計的有意差はなかった。

●主な調査、集計項目
 1.調査対象者の脊髄損傷部位と運動麻痺・感覚麻痺・知覚異常の特色。
 2.痛み・異常知覚の発生率と発症の特色(いつ発現したか、またするか等)。
 3.痛み・異常知覚のタイプ。
 4.どのような脊損医療を受け、またどのような疼痛緩和治療を受けたか。その結果は。
 5.痛みと日常生活の関係。
 6.今後医療に望みたいこと。
 などといったことが主な内容である。

●調査結果の主な点について
・疼痛(しびれの極致など、痛みに近い厳しい異常知覚を含む)の発生率:最初から痛みがない=19.2%。自然に痛みが軽減=7.9%。疼痛緩和治療に成功=1.2%。日常生活に支障を来たす痛みを持つ=26%。痛みに悩まされているが、日常生活を大きく制約するほどではない=40.1%。
 すなわち、受傷後有痛率=75.3%。現在の有痛率=68.1%となり、日々の生活に支障を来たしている人が4分の1以上いる。疼痛発生率は無視し得ない高さである。痛みを抱えるもののうち、79.5%が受傷後数週間内に難治性の痛みが発生している。56.1%が常時持続的な痛みに悩まされている。運動麻痺のみならず、知覚麻痺・知覚異常も脊髄損傷の重要な側面であり、時には深刻な併発症となる。(しかし、社会に発言する多くの脊損者は痛みを持たないかのようである。「はがき通信」でもたまに痛みを訴える投稿があるが、多くは痛みとは関係がないかのように見える。これは当面我慢できる異常知覚であり、諦めているためであろうか。)

・脊損者の痛みの特色:損傷部位から見て4つのタイプの痛みがあり、損傷部位から上、麻痺部位正常との境界部分、損傷部位以下の麻痺部分、全身的にまだら、に特徴づけられる。これらを複合的に持っている人が大部分であった。損傷部位以下麻痺部分に難治性の強い異常疼痛を持つ人が70.8%あった。言葉での表現は、しびれの極致、焼けるような、氷に漬けられるような、押しつぶされるような、ゴムで締め上げられるような、鋭く走るような、突かれるような、剣山の上にでもいるような、等々多様であり、口では簡単に言い表すことができない痛み・異常知覚が発症していることがわかる。麻痺部分に発生する難治性の痛み(通常の痛み止めがほとんど効かない)は神経障害性疼痛(ニューロパシー痛)と呼ばれている。筋肉痛的痛みや関節痛もあり、このタイプには通常の痛み止めが効くこともある。多くの脊損者は、こうしたさまざまなタイプの痛みを併せ持っている。
 痙性(けいせい)や痙攣(けいれん)が起きた時、また自律神経過反射が起きた時、これらの痛みは強くなる傾向にある。気候の変化に左右されるケースが57.4%ある。本来は痛みを呼ばない刺激(接触や振動、すきま風など)や過敏痛に悩む人が4分の1以上いた。こうした麻痺部分の焼けるような痛みや自律神経過反射に伴う痛み、本来は痛みを呼ばない刺激による痛みの強い人は、他動的な働きかけで過敏に痛みが増悪するため、リハビリが制約されるばかりでなく、積極的なリハビリが後戻りできないような痛みを引き起こすことがある。リハビリには慎重な工夫が必要となる。反面、疼痛緩和治療ないし予防治療として有効なリハビリもあり得る。

・疼痛緩和治療:疼痛緩和治療を受けた経験のある人は49.2%のみであり、約半数の人が受療経験がなかった。これは、良い治療法がないか、患者が医療に期待していないことを反映していると思われる。医療サイドから痛みの発生の可能性についての説明をまったく受けていないケースが52%もある。多くの患者が在宅に移行してからの痛みの増悪に戸惑っている。疼痛緩和治療に成功して現在ほとんど痛みの制約を受けていないと答えたのは全体で22名のみであった。この成功事例は、多くの場合、持続的神経障害性疼痛ではなく、筋肉痛的関節的痛みが中心とみられ、通常の痛み止めや、ストレッチ、マッサージ、温熱療法などの理学療法的治療のバランスのとれた組み合わせが効を奏していたと考えられる。
 神経障害性疼痛のケースでは痛みのタイプと治療法が幸運にもバッチリ適合していた数少ない例と思われる。神経障害性(ニューロパシー痛)と思われる痛みは難治であった。
 今回アンケートで回答者が試した治療法は多岐にわたる。
 上記22例のケースのように、疼痛緩和に成功したと言い切れなくとも、一時的あるいは部分的に効果があった治療法もある。マッサージ、温熱療法は試みた人の47%で効果が認められていた。またオピオイド系(モルヒネなど)も46%で一定の除痛が得られているが、コントロール不能なほどの便秘の副作用も多かった。セデス、ボルタレン、ロキソニンなどの非ステロイド系消炎鎮痛剤も30〜40%で一定の効果を認めるものが多かったが、消化器障害の副作用も報告されていた。これらは、神経障害性の痛みよりも、筋骨格性の痛みに効果があったと思われる。
 そのほかの抗痙攣剤、抗欝剤(こううつざい)、精神安定剤などの鎮痛補助剤の効果は言われているほど効果は高くない。同様に電気的刺激や電極埋め込み、神経ブロック、外科的手術(脊髄を焼いたり切断する)の有効性も低い。今回調査における治療経験サンプル数は治療法の有効性を評価できるほど多くはなく、報告事項も厳密でない側面があるため、確定的な評価には無理がある。
 むしろさらに事例調査として掘り下げる必要性は認められた。損傷のタイプや痛みのタイプによって、適用される治療法は相違してくるように思われるからである。

●今後の課題
 脊髄損傷に伴う異常疼痛が発生するメカニズムが未だ十分に解明されていないといってよい。治療法も、現時点では決定的なものはなく、多くの医療機関ではあまり積極的に取り組む姿勢はないと思われる。在宅患者にたいしては、恐らく効果があるであろうとされた方法を無原則的に順次試してみるという方法がとられている。これは治療を望む患者に個別バラバラに試されるだけで、その情報やデータの体系的な集積と評価やリスク管理は望み得ない状況にある。医療サイドに対して、異常疼痛や異常知覚も脊損医療の一環として本格的に取り組むことを望みたい。
 患者サイドにおいては、「痛み」が主観性の強いことから、自らの痛みの訴えと試みた治療法について正確に情報提示していくことが重要であると思われる。患者の情報の共有(痛みのしのぎ方も含めて)が、現時点での最も有効な対処法への近道であろう。
 今回調査は、まず、わが国における脊髄損傷における異常疼痛について統計的に概略を確認することが主眼となりましたが、今後さらに事例に即して、痛みのタイプや治療法、その効果、副作用など、より具体的に検討することに取り組んでいく予定を立てています。またご協力をお願いすることもあると思いますが、よろしくお願い致します。
東京都:A・Y


 サルツバーグさん追悼 


 「はがき通信」20号の松井和子さんの記事で、ステファン・サルツバーグさんの訃報を知りました。思いがけない知らせで驚くばかりでした。
 氏はカナダのブリティッシュ・コロンビア大学の教授でユダヤ人。日本の精神病史の研究家でもありました。それによってあらためて私は日本の精神病を取りまく劣悪な環境を知らされたりしました。日本語もギャグを飛ばすほど堪能でいらっしゃいました。
 五年ほど前、「WORKING QUADS」誌の清家一雄さんの呼びかけで、博多グリーンホテルで頸髄損傷者たちの集まりがあったとき、ゲストとして顔を見せておられたのにお会いしたのが最初で最後です。
 私は名刺を持たないので、自己紹介代わりにいつも自著や同人誌や自作英訳俳句・短歌集のコピーを持ち歩いておりまして、そのときも一部を差し上げたのですが、松井さんによると光栄にも感心して下さっていたそうで、ありがたいことです。
 その後、思い出したように郵便やメールのやりとりをしていました。氏の日本の精神病研究の論文を原文で送っていただき、とても読み切れず申し訳ない思いもしていました。
 あるいはお互いにジャズが好きということで、マニア好みのチャールズ・ミンガスのテープを送ってもらったり、クリスマスには楽しいカードもいただいたりしました。
 私も自らの編集する文芸同人雑誌「ペン人」や、年賀状や古典芸能のテープなどをお送りしたりしていました。私には数少ない外国の知人のお一人でした。
 ユダヤ人といえば最近その故国イスラエルでは、米国の後盾により強引にパレスチナとの国境壁を築いて顰蹙(ひんしゅく)を買ったり、あいかわらずの物量にモノを言わせた一方的な攻勢で、中東の不安定をさらにかもしだしたりしていますが、リベラルな氏が生きておられたら何と言われたでしょう。
 しかし松井さんに教えられてあらためて、そういえばここのところ音沙汰がなかったなあと気づきました。まさか癌やうつ病で闘病しておられるとは夢にも思いませんでした。なにしろ赤鬼のような威丈夫であられたのですから。
 それにくらべて死にそこないのような私が生き延びて、人生の無常を思わずにはいられません。ただただ慎んでご冥福を祈るばかりです。
佐賀県:中島 虎彦 E-mail: henomohe@po.ktknet.ne.jp
 「障害者の文学」 http://www.ktknet.ne.jp/henomohe/ 


 アジアの遺産 

C4.5、電動リクライニング式車イス使用、頸損歴46年、私的ヘルパー雇用、自立独居

 インド行きも10回目になると、ますます厚かましく大胆になるのでしょうか。賛同者20人を募り、ブッダガヤ、ラージギル、ベナレスなどへの交通手段を手配しているうちに、夢がだんだんとふくらみ、せっかくインドまで行くなら、タジマハール、さらに遠いアジャンタやエローラという千数百年前の石窟寺院群まで足を延ばそうということになりました。
 そうなれば、飛行機に7回、バスに22回も乗らなければなりません。しかも、夜間飛行は3回、夜行列車は1回を数えるので、健康は大丈夫かと心配しました。しかし、結局、参加者の中に若い人が数人いて、私が乗り物に乗り降りするときに積極的に抱えてくれたり、旅の途中で卓球用の網を買って身体を運ぶように工夫したのが良かったようで、今までと比較しても楽な旅になったのです。そして、福岡発着・12日間、21万円という楽しい大旅行が実現しました。
 タジマハールは中国の万里の長城、カンボジアのアンコールワットと共にアジアの3大遺跡に数えられています。シャージャハンという王様が王妃の逝去を嘆くあまり、総大理石で造った廟所(びょうしょ)です。写真でよく見るものと違って、実際に入場料を払って現場にはいると、その壮大さ、美しさに圧倒されます。しかも、廟の両側にイスラム教のモスクが控えており、これらも大規模です。全体としての巧みなデザインと優美な姿には感嘆するばかりです。
 インド西部のアジャンタは崖を彫って寺院を造り、中にある柱や天井なども岩をくり抜いて造ってあります。絵の具で宗教的に意味のあるものが壁や天井に描かれ、懐中電灯でしか見ることはできません。ここでガッカリするのは、第1窟から第29窟に至るまで、車イスでの入場が禁止されていることです。
 少し離れたエローラも基本的には同じ造り方です。しかし、一枚岩を彫って、屋根から床までを削り、等身大の象を何十頭も仕上げるのは並大抵の努力ではありません。また、古いインドの叙事詩の物語を小さい造型によって表現したり、芸の細かいところも圧巻です。この寺院だけでも完成までに150年も費やしたというのが頷けます。ここでも、イスラム教徒の手にかかって、多くの像が損傷されているのを見ると、なんとももったいない想いです。これら、アジアの歴史的な遺産は将来、世界中の人々の心をつなぐのに大いに役に立つことでしょう。
 ヒンズー教の聖地と言われるベナレスでのこと。ガンジス河のガートの観光地で1時間以上も辛抱強くつきまとう乞食のような身なりの男がいます。見ると、赤サンゴのネックレスをたくさん持っています。そんな偽物は買わないよ、とバスに戻ろうとすると、今度は脅迫的な態度で「車イスも押してやったんだ、買ってくれ」と言います。彼らは物を売るためによく手伝うことがあります。押し問答の末、こいつは根性があると見て私は開き直ることにしました。「お前は手も足も健康だ。車イスを押していても、大変な力の持ち主だ。ところが、俺はどうだ。手も足もダメだ。ご飯を食べるのも、寝るのも、人の助けが必要だ。どっちがいい?」男はしばらく考えて、黙って自分の鼻を指さしました。「そうれ、見ろ。だからそのネックレスは哀れな私が買うどころか、もらってもいいくらいのもんじゃないか?」男はしばらく黙って考えていましたが、ニッコリ笑って、「これ、あげるよ」と、1本のネックレスを私の首にかけてくれました。そのネックレスは貧しさに負けないすばらしく純真なインド人の思い出として、大切にしまっておこうと思います。



編集顧問:向坊 弘道
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