No.184 2020/12/10
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  ◆『臥龍窟日乗』-65- 「ゾンビ」の抵抗 

 台湾で事故に遭い頸髄損傷になってから、今年で17年になる。頸髄損傷の何たるか、最近になってようやく分かってきた。これは怪我ではなく病(やまい)なのだと。

 何が何やら分からない急性期のころ、「頸損5年」という言葉を耳にした。頸損の寿命は5年なんだと理解した。確かに危うい局面は何度かあった。だが極度に進んだ現代医学は、そうやすやすとは死なせてくれない。
 急性期を超えるころになって、いろいろ情報が入ってきた。永い方だと4、50年も生きておられる。皆さん、けっこうお元気に活動している。てっきり私は、頸損は年とともに身体が慣れ、症状が軽くなると思い込んでいた。
 ところが70歳代に入って体調が急変した。身体の節々が痛い。痺れを強くしたような痛みだ。身体と精神の平衡を維持するのが難しくなった。老後の不安感が日に日につのる。
 妻は私と同い年だ。すでに老々介護の域に達している。深夜の介護は辛いと言いだした。泊りの介護を頼むことになった。

 本棚から本が抜き取られているのに気付いたのは、昨年秋だった。信じられなかった。抜き取り防止のお願いを、何度か掲示した。それでもやまない。
 本の売れない昨今、古本屋に持ち込んでも二束三文だ。これは換金目的ではない。本好きにしか分からない「本の虫の心理」がある。目の前に好きな本があれば、なにがなんでも手に入れたい。確信犯だ。「犯人」を憶測するのは、じつに嫌な作業だった。
 ずいぶん迷ったが、警察にも届けた。「証拠がないからね。防犯カメラでも付けたらどうですか」初老の警察官は眉をひそめるながら呟いた。「最近、介護業界でも多いんですよ」
 防犯カメラは設置したが、なんの関係もない善意のヘルパーさんがどう反応するか、気になった。ある人が「本を盗られたくらいで騒いでいると、命取られるよ」と、冗談めかして言った。やまゆり園事件を思い出してぞっとした。
 施設の介護職員をやっていたという男性ヘルパーが、我が家に出入りしている。Aさんという。腹蔵のない意見を交わせる間柄だ。
「防犯カメラは賛成です。虫も殺さない顔をして、何考えているか分からない人間って、介護業界にも多いんです」Aさんは目を伏せた。
     *  おぞましい事件が京都でおきた。ALSの女性が、SNSで知り合った二人の医師に依頼して安楽死した。安楽死の是非はさておくとして、医師の一人が、厚生労働省の元医系技官であったことから問題になった。「高齢者は見るからにゾンビ」などと投稿して憚らない。また二人の医師は共同で『扱いに困った高齢者を「枯らす」技術』という電子書籍を発行してもいた。
 やまゆり園の犯人は施設の介護職員だ。ところが今回の安楽死事件は正式な資格を持った医師、しかも一人は元厚生労働省技官だった。いわば世間的には「識者」と分類される立場の人間が、かくも卑しい差別思想をもっているという事実に驚かされる。いつのころから社会の弱者である高齢者や障害者を差別する風潮が浸透したのだろうか。Aさんに振ってみた。以下、私との一問一答。

「人間っていったい何なんだろうって思うんですよ」「どうして?」「施設に長いこといると、こういう差別思想って本当に生まれてくるんです」「なんで」「人間の格好はしていても、こいつら人間じゃないって思えてくる瞬間があるんです」「暴力振るうの」「さすがにそこまでは…でも手を振り上げる同僚はいました。アッ、オレ壊れかかってるなって気付いて、怖くなるんです」「で、どうするの」「けっきょく家族が面倒見切れなくなって、施設にあずけるわけでしょ。それをなんでオレたちが、迷惑を被るんだってところまで追い詰められるんです。施設辞めて、訪問介護に移る人って、けっこう多いんです」「姥捨山だね」
 表面に現れる事件は、氷山の一角に過ぎない。本当に怖いのは、SNSの裏に潜んだ、数十万人もの優生保護信奉者なのだ。

千葉県:出口 臥龍

 

  ◆国立国会図書館のデジタル録音図書 

(50代、男性、受傷後18年、C5/6)
 2019年6月28日に公布、施行された「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」において「視覚障害者等」とは、視覚障害、発達障害、肢体不自由その他の障害により、書籍について、視覚による表現の認識が困難な者をいいます。視覚障害者等のために開発された利用しやすい情報システムは、英語の頭文字をとってDAISY(デイジー)と呼ばれています。

 国立国会図書館は、視覚障害者等用データをインターネット経由で視覚障害者等個人や図書館等に提供しています。目録は誰でも検索できますが、データを利用するにはあらかじめ利用者登録が必要です。
 申請書と身体障害者手帳の「氏名、生年月日、住所、障害の種類・程度が記載されたページの写し」を郵送あるいはFAXすると、10日ほどで登録利用者IDとパスワードが郵送されてきます。

 全2万4千タイトルの内、9割以上が音声DAISYです。紙の本や電子書籍ではページをめくる必要がありますが、音声データであれば聞き流すことができます。見出しを使って好きな場所から始めることもできます。また、著作権の満了した文学作品を無料公開している青空文庫にはない作品が音声DAISYにはあります。例えば、短編小説の名手とされるオー・ヘンリーの『賢者の贈り物』は両方にありますが、音声DAISY『20年後』に収められた数編は青空文庫にはありません。
 DAISYデータのストリーミング再生にはストリーミング再生に対応したソフトウェアが必要ですが、国立国会図書館によれば、無償で利用できるソフトウェアはないそうです。 DAISYデータをzip形式でダウンロードすることができます。ダウンロードしたzipファイルを解凍するには、ファイルを右クリックし、「すべて展開」を選択します。解凍したファイルを再生するにも再生用ソフトウェアが必要となりますが、無償版もWindows用とiOS and Android用に公開されています。ソフトウェアによりますが、DAISY再生ソフトをまずは立ち上げ、DAISY再生ソフトからDAISYファイルを選択して開きます。
 音声DAISYのほかにも、音声とテキストがシンクロしているマルチメディアDAISYなどがあります。例えば、島本理生『さよなら、猫』など12編を収めた『こどものころにみた夢』にはイラストが含まれていて、読み物としても楽しめます。

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 ・国立国会図書館 視覚障害者等用データ送信サービス
   

 ・DAISY研究センターが紹介する再生用ソフトウェア
   

 ・iOS and Android用の再生用ソフトウェア(無償版)EasyReader for iOS and Android
   

茨城県:DRY

   

★★★★  マスコミから  ★★★★

 ◆新幹線、車いすスペース4席に 国交省、JR各社と合意

 国土交通省は2日、新幹線の車いすスペースが従来の1編成当たり1~2席から、原則4席に増えると明らかにした。障害者や子連れの乗客向けの多目的室もあるため、1編成計5人が車いすで利用できるようになる。JR各社や障害者団体と合意した。増設には車両改修が必要だが、国交省がスペースの広さなどを議論しており、実現時期は未定。
 スペースが4席に増える車両は、北海道・東北のH5系・E5系、上越のE4系・E2系、北陸のE7系・W7系、山陽の500系。
 1編成の車両数が多い東海道については、6席とする国交省の案に対し、4席にとどめる案もあり、調整を続けている。
 (情報提供:令和2年7月2日 共同通信)

 ◆空港バスも車いす対応義務化へ 地方の路線対象、国交省方針

 国土交通省は15日、車いす利用者が乗降できるリフト設置など、空港連絡バスにバリアフリー化を義務付ける方針を固めた。車体にスーツケースの収納スペースを確保するため義務化対象から除外していたが、リフト付き車両が開発され、対応可能と判断した。主要都市から空港まで、鉄道など代替交通機関がない地方の路線を対象とする方向で調整する。
 義務化後、事業者はバリアフリー法に基づき、車両更新時に対応車両を導入する必要があるが、空港バスは座席の床下に大型荷物の収納スペースが必要で、床を低くできない。ただ、リフト付き車両は高額で、国交省は事業者の負担軽減へ財政支援も検討する。
 (情報提供:令和2年6月15日 共同通信)


 ●車いすがそのまま乗れる空港バスに試乗する赤羽国交相=2019年12月、東京・霞が関

 ◆日本武道館で竣工式 五輪パラへ安全、機能向上

 来年の東京五輪で柔道と空手、パラリンピックでは柔道が行われる日本武道館の大会に向けた増改修工事が完了して29日に竣工式が開かれ、報道陣に内部が公開された。「擬宝珠」のある八角形の大屋根が象徴的な1964年開館からの意匠を継承しつつ、安全性、機能性を向上させた。
 大屋根は銅板からステンレスにふき替え、荷重の軽減や腐食防止を図る。夜間の景観も意識し、ライトアップできるようになった。アリーナの天井を耐震補強し、照明は発光ダイオード(LED)を使用。遅れていたバリアフリー化のため30の車いす席を常設し、多機能トイレも充実させた。
 (情報提供:令和2年7月29日 共同通信)


【編集後記】
 新型コロナの影響で朝ヘルパーさん訪問時に検温が始まりました。毎日体調万全というわけにもいかず、うっかり天気予報の最高・最低気温を見落として前日より急激に気温が変動した日の翌朝は、たまに熱がこもり熱っぽかったり、風邪を引きかけて調子悪くなることがあります。他にも、やけに身体がだるい日があり、もしかして感染した初期症状?なのか心配になる日が1日だけありました。
 まだ検温開始から発熱して37度台が出たことはありません。もし体温計で37度台が出てしばらく下がらなければ、自分の発熱が原因で疑心暗鬼になるのもイヤですし、感染が疑わしく白黒つくまで騒ぎみたいになることも避けたいので、コロナ感染防止に務めながら、風邪を引くなどの体調不良で発熱はしないようにだいぶ気をつけています。
 みなさんも体調管理や、コロナ感染にくれぐれもお気をつけください。
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 それからホームページ(ネット版)編集担当者の後任者が、なかなか見つからずに、誌面にて自薦・他薦を問わず広く募集させていただきました。まずはお気軽にお問い合わせください。どうかよろしくお願いいたします。
 また手元にWebページ作成ソフトのホームページ・ビルダー21(Win版)通常版の未使用品があります。サイト編集の経験があるが、編集ソフトがないという方等々、後任者はご活用くださればと思います。

 次号の編集担当は、 瀬出井弘美さんです。
 編集担当:藤田 忠
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