福祉ホームでの自立生活について
今回は、現在までの私の生活の様子を紹介したいと思います。まずは簡単な略歴から。私は21歳で受傷し、30年間の車いす生活です。年齢は51歳のおじさんです。4年間の入院とリハ訓練で、心と体は少しは安定したようでした。でも、自宅に戻ってからはほとんど外出もせず、新聞をテレビ番組欄から最初のページまで目を通す毎日……なんのためのリハ訓練だったのか。そんなやる気のない生活が2年くらい続いたでしょうか。ある日、作業所へ来ないかというお誘い。送迎も考慮していただけというので、ふたつ返事で通所を開始。これを機会に外出が増えるようになりました。 ここでリハ時代の下敷きが生きてきます。ひとりで電車に乗って出かけるようになったのもこの頃からでした。行動範囲が広がれば次ぎに考えるのは「ひとり暮らし」。誰もが感じることかもしれませんが、親の高齢化や介護疲れ。親にも生活がある。どうしたものかと考え、ひとり暮らしの先輩の家を訪ねたり、自立生活センターへ行ったのもこの時期でした。しかし、いざとなりますと不動産(アパート)や介助の問題、健康面などなど、ハードルの高さを見た気がします。 どうしようかと迷っていたときに、開所予定の施設「ケア付き住宅」への入居話がきました。この施設、我流で言うのならば「障害者専用のアパート」。外側から見ると1戸建。内部は、1階4部屋の身体障害者用。2階が5部屋で知的障害者用と職員室。正面玄関は自動ドアがあり、電動車いすがおけるスペースも広くなっています。もちろん段差はなし。各居室は6畳程度の広さで、洗面所とトイレは別に付いています。共用部分は、風呂と洗濯場と食堂のみ。特にトイレは私が入居することを考慮して、便器は馬蹄(ばてい)式といわれる便座を長いものに取り替えてくれました。 ケア付き住宅と書きましたので、ケア(介助)があると思いがちではありますが、実際には個別のケアは行いません! では、どうするのか? 介助者は自分で捜す。あるいは事業所を紹介してもらう。常勤や非常勤という数名の職員は、入居者の食事作りや役所(福祉事務所)とのやり取り、夜勤ではなく宿直者としての緊急対応等があります。あとでわかってくることになりますが、食事作りを考えなくて良いというのは大きな意味があります。既製のものでは必ず飽きがきます。食というものが保証され、栄養面で管理されているのはありがたいことです。また、どんな形であれ、夜に人が常駐しているのも助かりました。私の生活パターンでは就寝後は、介助者には帰ってもらっていました。なので夜中はひとり。普段は大丈夫にもかかわらず、疲れが出たのか、年に数回は体調を崩し対応してもらいました。 さて、7年間の親元での生活を離れて自らの生活を開始。念願もかなったので夢も希望もありましたが、現実は入居して半年間は体が安定しませんでした。かぜや褥瘡との戦いでした。つい調子に乗って、深夜まで起きていたのが原因です。1ヵ月のうちに半分以上自宅に戻ったこともあり、果たして継続が可能か中止か悩んだときもありました。また、介助面では私の判断の甘さから大小の失敗はあり、冷や汗と試行錯誤の連続でした。当初は数年でアパートで完全なひとり暮らしということも考えていましたが、居心地のよさから気がつけば10年以上の生活となりました。 長い生活となりますと周囲の事情も変わり、福祉ホームへの移転の話が出てきまして、2007年の10月から福祉ホーム「ライム」へ転居となり、現在の生活に至ります。ここで少し制度的なものをお話しします。「ケア付き住宅」と「ライム」を運営していますのは、社会福祉法人です。補助金(運営費)につきましては、自立支援法の地域生活支援事業の中のひとつの制度で、福祉ホームという項目です。市町村事業なので市町村によって対応が違います。 入居者の構成は、20代後半から40〜50代が多く、60代の方もいらっしゃいます。障害程度は1、2級が多く、誰もがヘルパー派遣サービスを利用しています。こちらも職員は数名いますが、個々の介助の対応はしていません。また、電気・ガス・水道等は、人数で均等割になります。 入居5年の感想として、建物が新しいので気持ちも良い。入居者が20人もいますと、もうミニ施設といった感じですが、以前と同様に11畳で洗面所とトイレ付き、プライバシーは配慮されています。また、呼び出しボタンも設置してあります。 欠点は、最寄り駅まで電動車いすで1時間くらいかかることでしょうか。ただ、大学病院が近くにあり、ノンステップバスも利用可能。近くにコンビニしかなく、スーパーがあると嬉しいです。環境が変わり健康面を心配しましたが、疲れは出ても体を崩すこともなく生活しています。 受傷したときには将来どうなることかと思いましたが、振り返れば順調にきたように思えます。とはいえ、自分なりにアンテナを張り情報を得ました。なるべくでしたら若いときに、または気持ちの熱いときに自分自身を試されてみてはいかがでしょうか。最後になりましたが近くにお越しの際は、是非、見学にお立ち寄り下さい。 神奈川県:F.H.
ひとくちインフォメーション
★ 本の紹介『私、舞台を降りない!——車いす女優萩生田千津子の世界』 萩生田(はぎうだ)千津子 著 出版社:駒草出版 定価:1365円 単行本192ページ 萩生田さんとは、神奈川リハビリテーション病院にリハビリのために急性期に入院中に何かの治療でちょうど入院されていて知り合いました。その後、同じ神奈川在住、身体機能レベルが同じくらいだったので陸上や水泳の県大会で競い合い、平成10年の「かながわ・ゆめ国体」時には一緒に出場しました。 萩生田さんは、舞台女優として活躍(劇団文学座に在籍)していた1982年、不慮の交通事故で頸髄を損傷。事故直後は医師から一生寝たきりを宣告されるが、作家・水上勉さんの「残されたものを生かせ。声で語れ」の言葉で復帰を決意。リハビリを重ね、“車いす女優”として翌年には語り手として舞台に復帰。 エッセー集には、この間に抱いた18の思いが収められています。60歳半ばになった現在も語り部や講演、演技指導などの活動で自ら車を運転され、全国各地を飛び回っています。 私も、萩生田さんの語りの舞台を拝見したことがあります。頸損は、肺活量の低下など呼吸器系に大きな影響を及ぼしていることが多いので、舞台で、しかも一人きりの語り部として演じることは過酷であろうことが容易に想像できるのですが、迫力があり、頸損とはまったく感じさせないところがとてもすごいと思いました。 公式ブログのサイトもあります。 編集担当:瀬出井 弘美 【編集後記】
年に一度、骨密度と体脂肪を測っている。Kリハ病院には、全身の骨密度と体脂肪が同時に測定できる機器がある。 骨盤と背骨の骨密度の値は、ドクターからもけっこう立派だと言われる。脚の値も、まだ簡単にポッキリ折れてしまうような値ではない。立位をとるようなリハは一切やっていないが、毎日規則正しく車いすに乗り、座る姿勢をとることで多少なりとも脚に負荷がかかっているのかもしれない。 体脂肪は、お腹より下半身にタップリ! パーセンテージだけでなく、グラム数でも表されるのでよりリアル感がある。数値をみてため息のみ……。ただ、お尻に“肉ザブトン”を1枚敷いているせいか、褥瘡はできにくくなった。 骨というとカルシウム摂取と思う人が多いと思うが、女性の骨粗鬆症(こつそしょうしょう)対策には大豆などに多く含まれるイソフラボンが有効だとされている(特に更年期から閉経後)。私は毎日、豆乳を飲んでいる。 この夏も猛暑続きで頸損にはとても辛かった。この夏に気がついたことがひとつある。水分をたくさん取ったが、発汗できない分、お小水の量がとても多く出た。飲む量的には同じでも、寒いときとは明らかにお小水の量が格段に違う。そして、水分のほとんどがお小水に回ってしまうせいなのか、便が石並みに硬くなることが多々あった。皆さんはどうでしたか? 次号の編集担当は、藤田忠さんです。 編集担当:瀬出井 弘美
………………《編集担当》……………… (2012年4月時点での連絡先です) 発行:九州障害者定期刊行物協会 |
ホームページ | ご意見ご要望 |