<特集!「四肢マヒ者のスポーツⅡ(その2)」>
前号の特集に引き続き「四肢マヒ者のスポーツ」の第2弾・その2です(第1弾は、116号・2009年4月発行)。四肢がマヒしていてもできるスポーツがあり、生きがいとして楽しまれている方がおられます。スポーツを何かしたいという方へスポーツを始めるきっかけになればと、現在されているスポーツの紹介や体験談、スポーツを始めたきっかけ、スポーツを始めて心や身体の変化、チームメイトとのエピソード、スポーツを行うなかでの工夫、気を付けていること、失敗談等々を情報交換のためにご投稿をご紹介させていただきます。
障害者でも檜舞台に立って、スポットライトをあびましょう!〈後編〉
私は車いすダンスを始めて10年ほど経ってから、自分の住んでいる市で発起人となり新しく車いすダンスのサークルを立ち上げました。どの世界も一緒だと思いますが、珍しいことが始まったら一度入会してみようか?と思い、いろんな方がいろいろのサークルに入会されますが、話に洩れず、この会『車いすダンス福津サークル』に入会されても半分は興味だけ示されて、1年間で辞められた方も多いです。当初は会員数23人いましたが、7年経った今年は16人です。内訳としては車イス者は私を含めて4人、残りの12人は健常者です。練習の参加率としては16分の10です。ほぼ同じ人が参加で残りの人は賛助会員です。
私が車いすダンスを始めて18年ですが、私は教えることができません。ステップの名前やリズムに乗った動かし方を口で言っても説明ができません。どうしてもスタンディングの人が身体を動かし動作で示さなければ、足の動きなどは分かりません。そのために私の会では、ご夫婦で社交ダンスを習っている人(75歳前後)が中心になって練習しています。福津社会福祉協議会の応援を得ておかげさまでコミュニティーセンターを無料で練習会場に使わせてもらっています。冷房、暖房も入りますので本当に助かっています。
● 2006年6月13日 春日東小4年生と
練習はこの7年間同じ曜日で、第2と第4の水曜日で午後2時から2時間の練習時間です。その前後の30分も準備と片づけ時間としてもらっています。
会員もいろいろいて、海の幸、山の幸、菓子や飲み物、お土産品等の差し入れがそれぞれあり、ダンスもするがおしゃべりとおやつで時間を半分費やすことも、ときどきあります。また、気候が良かったり季節の花が咲いていると聞くと、半分の時間だけ練習して後半はピクニックや花見にも皆の意見で突然変更になることも年に1、2度はあります。
このようなファジーな活動ですが、競技会や上級を目指した練習でなく、楽しく少しでも身体障害者が楽しい時間を取れるようにと、障害者の私が会の仲間に言ってこの会を続けています。
今年もそんな中、4年間続いて恒例になっている「小学校の福祉授業」の出前授業をしました。それは小学校4年生の授業に「障害者について……」があるそうで、視覚障害者、聴覚障害者、肢体障害者などから直接に話を聞く勉強です。私の会も車イス生活者の立場で、子供たちに話をします。その一環で「車いすダンス」をします。子供たち1人ずつが全員車イス者とダンスをするのです。この学校は2クラスで73人でしたが、車イスの会員4人で各自20名くらいの子供を相手にジルバを踊りました。他の健常者の会員は事故がないようにそれぞれ2人ずつが車イスに付き補助をします。最後は担任の先生と少し難しいステップを追加して踊ります。その後子供たちから質問を受けて答えます。このような授業でした。
●2005年9月14日 宮城病院/2011年6月22日 神興小4年生福祉授業
私たちは障害者として、皆さんの助けを得て生活をしています。しかし、私たちにできることは私たちでしなければなりません、また、障害者しかできないことは障害者がしなければなりません。その例としては障害者スポーツは障害者しかできません。健常者が障害者の代わりをしてはいけません。この例のように障害者は障害の特長を生かして自分に合ったスポーツを見つけ、楽しい人生を過ごしたいと思います。
福岡県:I.M.
西日本車椅子ダンスの会「アミーゴス」 福津サークル会長
<特集!「けい損者の便秘について」>
今号の特集は、「けい損者の便秘について」です。けい損者にとって排便管理は、一生つづく厄介な問題です。頑固な便秘に苦しみ、腸閉塞で緊急入院を反復し、巨大結腸(メガコロン)と診断された方もいます。最近、せき損医療でも排便管理が注目されています。
その海外最新情報の紹介とともに、便秘の悩み、合併症、対策などの体験やご意見をご紹介させていただきます。
特集 排便管理について
私は受傷して20数年、3年前からオストメイトです。受傷2週間で潰瘍も併発して開腹手術、胃を3分の2と十二指腸を切除したのでその後癒着もあり、1年後から腸閉塞になり、それから多い時は半年おきに入退院を繰り返しました。季節の変わり目と冬場が特に悪く、冬場の入院が多かったです。体が冷えると腸の動きが悪くなります。
受傷後、排便管理は下剤とグリセリン浣腸で調整してきましたが、便秘や下痢とかなかなかうまくいきませんでした。3年ぐらい前から特に腸の動きが弱くなり、腸閉塞が頻繁で、入退院の繰り返しです。食べないから便が出ない、出ないから食べられないのか? 悪循環の繰り返しです。食欲と腸閉塞になる恐怖との葛藤です。体重も10kg近く減りきつくてだるくて仕方がありませんでした。
いろいろと悩んだ末、家族と担当医に相談して人工ストーマ(人工肛門)を作ることを決めました。担当医が言うには私は腸が長く、延びた感じでいつもガス、便がたくさん溜まっているとのことでした。お尻の括約筋の反射が強く閉まり過ぎるのか? ガスが全く出ません。いつもお腹がパンパンです。入院中はゴム管でガス抜きを日に2回もしていました。ストーマを作るまで毎日がつらかったです。
そしてストーマ手術の日も決まり入院5週間、検査と手術、ストーマの管理やパウチ(便を受ける袋)の指導を受けて退院しました。私の場合1級障害と排せつ障害4級で、パウチは支給金の範囲内で収まっています。ストーマを作ってからはガスが結構出るようになり、排便も楽になり、気持ち的には少し楽です。体重も9割ぐらい戻って50kgぐらいです。まあストーマを作ったら作ったで別の悩みができますね。匂いや漏れの心配、下剤の調整などありますが、それでも今はストーマを作って良かったと思います。今でも漏れの失敗とかいろいろとありますが、3年前のきつさに比べると今の方が楽です。
何年か前に私も「はがき通信」の記事を読んで勇気づけられ、病院に相談してみようと思いました。参考になれば幸いです。皆さんもせき損は特に排尿と排便が最大の悩みだと思います。お身体ご自愛ください。
匿名希望
特集 けい損者の排便管理と便秘
特異な排便管理
腸閉塞を繰り返し、お腹が妊婦のようと悩んでいた人がついに巨大結腸症と診断され、その人から脊髄損傷の国際医学雑誌Spinal Cord、2000,38の論文を紹介された。その論文「脊髄損傷者の巨大結腸症」によると、米国の調査で脊髄損傷者128人中73%が巨大結腸と診断、中でも脊髄損傷歴10年以上に多発と、驚愕の報告であった。その後、追試や類似の調査は報告されないが、排尿研究中心だったその専門誌にぼつぼつと排便に関する論文が掲載されるようになってきた。
巨大結腸症とまでいかずとも、便秘で悩むけい損者は多いはずと、「はがき通信」で便秘の特集を企画していた時、大阪頸髄損傷者連絡会の機関紙「けい損だよりNo118」が届き、そこに、くるめ病院排泄リハビリテーション科の神山医師の講演内容と質疑応答が特集で掲載されていた。排便のメカニズム、便の性状を7段階で計るブリストル尺度、排便障害とその合併症、けい損者の排便障害について具体的で分かりやすい有益な講演、中でも注目したのは後半の質疑応答、まとめるとつぎの2点である。
(1)3日に1回などと定期排便や失禁を恐れて便を出し切ることに拘るけい損者に対し、定期的に排便する必要性はあるのかと問い返し、便をすべて出しきろうとすると、結局、下剤に頼らざるを得ないし、しかも下剤は量が増えていくばかりで切りがない。3日に1回ではなく、もう少し間隔を空けるか、不溶性繊維を多く含む食事内容にしたほうが良いだろうし、いま以上に下剤を増やすと、かえって下痢便となり、漏れる危険性があると回答。
(2)けい損歴が長期化し、高齢になると排便困難が悪化するのではとの質問に、年齢と腸の働きは相関しない、高齢になっても内臓の機能は衰えないもの、けい損歴が長くなると、排便困難の悪化はけい損によるものか、下剤の影響か、その因果関係は不明、下剤による腸の動きでガスがたまったように感じてしまうのか、あるいは便がたまっていないのに、刺激性下剤を長期使用すると、小腸にガスがたまりやすくなる。海外では便秘には刺激性下剤ではなく、膨張性下剤の処方(日本ではベンゴナール、ビーマスなど)が主流との回答。
けい損者は便を出そう、出そうとしすぎる傾向から、刺激性下剤(アローゼン、ブルゼニド、ラキソベロン、センナなど)に頼りすぎるのではないかと、神山医師はけい損者の下剤に頼りすぎる傾向に繰り返し危惧されていた。講演を聴かれたけい損者はその警告をどのように受け止めたであろうか。
刺激性下剤の副作用
刺激性下剤の安易な使用は、他の専門医からも問題視される。ストレス社会を象徴する病「過敏性腸症候群」を扱った著書「内臓感覚」(NHK出版)に「下剤使用に異議あり」として次の指摘がある。
「大腸の専門家が集まると、だいたい、世の中の下剤の使い方をもっとうまくできないかという話になる。下剤で症状をさらに悪くして、どうしようもないので大腸の専門家を受診する、という患者があとを絶たない。専門家の問題意識は共通しており、やり玉に挙げられるのが、大腸刺激性下剤の長期漫然服用である。とくにセンノシドという薬の使い方が悪い。」センノシドは効果の強い下剤なので、腸専門の著者もよく処方する。ただし大腸造影など検査の前処置のみ、つまり一時的な使用に限り、刺激性下剤の長期漫然服用は避けるべきとの意見である。
OAZO丸善のベストセラーコーナに5カ月以上も平積みの本「なぜこれが健康に良いのか−副交感神経が人生の質を決める」(サンマーク出版)によると、著者は順天堂大学病院で便秘外来を担当、頑固な便秘にも基本的に下剤は使わない、なぜなら下剤をいくら服用しても便秘を根本的に治せないから、便秘を治すのは、腸管の蠕動運動(収縮)をリズミカルに促進すること、結論的には自律神経のバランスを整えることだが、便秘治療の秘密兵器として乳酸菌を主成分とする整腸剤を処方し、治療効果をあげ、現在予約は3年待ちとのこと。
もう一つの脳:腸の超能力
腸はもう一つの脳に例えられる。藤田恒夫の名著「脳は考える」(岩波新書)を読むと、腸の超能力に驚嘆する。勝手に腸に入ってくる食物の構成を見分け、適切な分泌物を出し、消化吸収し、不消化の残留物を大腸に押し出す。さらに視覚でも味覚でも見抜けなかった有害物を腸内で見抜き、すばやく下痢便として体外に排出してしまう。今回、再読してとくに関心を持ったのは腸に空腹期収縮を起こすモチリンというホルモンの働きである。
「モチリンはほかの消化管ホルモンとちがって、食事のあとではなく、食事のあいだの空腹期に血中に放出される。そして胃から肛門の方へ、腸全体をしごくような収縮の波をひき起こす。空腹のとき腹がグーッと鳴るのはモチリンのせいである。
それではなぜ、空腹期に腹が鳴ったり腸が収縮したりするのか。腸の中には、食物が通過したあとにも、いろいろな物質がたまる。腸から分泌される液体や粘液、腸の内面からはげ落ちる無数の細胞、ふえすぎた腸内細菌など、これでは不衛生だし、センサー細胞たちもフレッシュな化学刺激を受けにくい。そこで腸のもろもろの貯留物を一気に送り去ろうというのが空腹期収縮である。」このモチリンというホルモンは十二指腸、とくにその上端の胃に近い部分から放出されるそうだ。
蠕動運動にホルモンまで活用する腸能力は驚嘆するばかり、反面、前掲書「内臓感覚」の過敏性腸症候群で明らかなように、腸は非常に繊細、ストレスに弱い。現代人は、脊髄損傷の有無や損傷レベルに関係なく、無自覚のストレスによって下痢や便秘を繰り返し、社会生活が妨げられる。まして排便行為すべてに介助が必要なけい損者のストレスはいかに甚大か、自律神経過反射として誘発されずとも、交感神経優位の状態が持続し、腸の蠕動運動が抑制され、そこに外部から便を出し切るよう強圧が加わると、腸は本来の機能が果たせず、悲鳴をあげているのではないだろうか。
編集顧問:松井和子
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