はがき通信ホームページへもどる No.127 2011.2.25.
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 今年の年賀状 


 今年もたくさんの年賀状を頂いた。現役を引退すると、年賀状がガタ減りと聞くが、私の場合、けい損者、せき損者、そのご家族から頂くのが半数以上占めるせいか、リタイアしても量的にはそう変わらない。ただ、長いこと継続していた年賀状がばったりと途絶えることがある。
 今年は、S畑さんとH口さんの年賀状が届かない。S畑さんのは彼の声が直接聞こえてくるようなメッセージがあり、毎年とても楽しみ、心温まる新年の挨拶だ。S畑さんからは毎年暑中見舞いも届く。昨年、亡くなる少し前にも暑中見舞いが届いていた。その直後だっただけに彼の訃報は驚いた。しかし、彼の最後の通信「選択死カード不所持……」(はがき通信123号)を再読すると、自殺を希求するほどの身体の不調と辛さがせつせつと綴(つづ)られていた。個性とユーモアのある文章であったが、訃報後に読むと、辛さが滲(にじ)みでていた。彼そっくりの妹さんがご遺体に向かって「お兄ちゃん、これでやっと楽になれたね」と言われたそうだ。ほんとうにそう思う。S畑さん、安らかに旅立って下さい、向坊さんが両手を広げて待っていますよと、私も遠くから合掌した。
 S畑さんと最後にお会いしたのは、2年前、2009年第一ホテルで開催された「はがき通信」東京懇親会だった。この時、妹さんが同行、紹介されずともすぐ分かった。ほんとうに良く似た兄妹だった。懇親会の翌日、昔の同僚である東京の友人に久しぶりに会ってきたと楽しげな様子だった。その上、交流会3日目、午前中の会議にも出席、「はがき通信」編集体制強化について熱心に討議に参加されていた。彼は献体など、ご自身の死後のこともしっかりと準備されていたと聞く。奥さんのT子さんを常に引き立て、敬意を表されていた。それが少しも不自然さを感じさせなかった。私にとってS畑さんは、昔から何もかも知り合った友人のように心が通じ合う貴重な存在だった。心の中でいつでも交流できるとはいえ、交流会で彼に会えないのはさびしい。
 もう一人、ユニークな年賀状が途絶えた。人工呼吸器使用のH口A子さんだ。A子さんは米国留学中の事故によるけい損、ベンチレータ依存でも非常に活動的な方だった。昨年末、A子さんの訃報も大きな衝撃だった。A子さんとお母さんから気管切開を閉じてNPPV(非侵襲性人工呼吸)に切り替えると伺ったのは、やはり2年前の東京交流会だった。けい損者のNPPV導入に積極的なTドクターと連絡を取り、彼女が診療するK労災病院へ入院待ちとのことだった。その年の10月入院、私は和歌山医大の帰り何度かA子さんを見舞った。高額な個室料金を気にしつつも、いつも元気だった。病院の近くに美味しいお好み焼き店があるから味見してくるようにと何度もすすめられた。NPPVは自発呼吸の訓練にもなる、いつか自力呼吸ができるように頑張り、自立生活を目指したいとも語っていた。最大のメリットは声がでるようになり、コミュニケーションがスムーズになったこと、遠方の友人と電話もできるようになった。
 朝、家族はマスクがずれ、呼吸停止の状態になっているA子さんに気が付いた。ベンチレータのアラームはA子さんの頭部に圧迫され、鳴らなかった。その日に限ってパルスオキシメータをつけ忘れていた。ベンチレータの音がまるでA子さんの寝息のようだったという。自発呼吸訓練の成果が間に合わず、39歳の旅立ちだった。合掌。
 反面、今年の年賀状には非常におめでたいニュースがあった。けい損歴30年近くで結婚、実子に恵まれ、親子3人の写真入りという嬉しいビッグニュースだ。今になって気づいたが、昨年の年賀状に、そのきざしがあった。あふれんばかりの幸福感の滲み出たメッセージが書かれてあった。一昨年、そのメッセージを書いた頃、すでに妊娠数カ月だったのだと想いいたった。人工授精による着床率は総じて非常に低いと国立看護大院生の研究指導を通じて実感していただけに、奇跡のようなニュースであった。お祝いの電話で思わず「パパになったからには長生きしなくてはね」と、言わずもがなのことを言ってしまった。

編集顧問:松井 和子


 腰折れ俳句(17) 


 盆の上に雑煮(ぞうに)と肥後の赤酒と

 ひとひらの雪をしらせにくる子かな

 車椅子磨いて春を待つてをり

 口に響く音を楽しむ雛(ひな)あられ

 ぶらんこの少年空を蹴るごとく
 



         イラスト/K.S.

 招きもしないのに何度も寒波はやって来て、天草にも雪を運んで来るのです。だから雪の正月。
 世界は白く輝いていっそ清々(すがすが)しく、そこはかとなく淑気(しゅくき)満つるあんばい。冬だものこれはこれでいいのです。
 さて、今年は「独りを慎(つつし)もう」なんて。妙にマジメになってしまうものですね。
 
 

熊本県:K.S.


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紹介者:神奈川県:S.K.

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