はがき通信ホームページへもどる No.120 2009.12.25.
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 『臥龍窟日乗』 —贋物(がんぶつ)オークション—


 間もなく頸損も6年目になる。受傷からしばらく続いていた精神錯乱も4年目くらいから治まった。だが不定期的に襲ってくる鬱(うつ)は未だに続いている。残りの人生をどのように生きていくか考えると、またぞろ暗く深い淵(ふち)に首を突っ込む羽目になる。
 結局、なにか目標を設けてそれに没頭するほかないなと考えた。昔、ノンフィクションを志したことがある。40年も前のことだ。仕事の合間を縫って、3億円強奪事件の現場を踏査したり、遠くは四国の財田川事件の関係者を訪ねたりした。
 そのうち本業にかまけて中途半端になってしまったが、多発する最近の事件に接するたびに血が騒ぐ。だがノンフィクションというのは半分肉体労働みたいなもので、高位頸損の身には侮(あなど)るべくもない。
 同じころ全国の中堅どころの陶芸家を取材して歩いたことがある。みな今では押しも押されもせぬ大家になっておられるが、若かった私もずいぶん勉強させてもらった。おかげで真贋(しんがん)を見抜く目は鍛えられた。
 見分ける方法とは何か。銘とか箱書とかもあるが、これほど当てにならないものもない。豪華な袱紗(ふくさ)や二重箱などあまりに御膳(おぜん)立てのでき過ぎているものも怪しい。初歩の人であれば、できるだけ多くの作品に接してみることだ。名匠といわれるほどの作家の作品であれば、滲(にじ)み出る風格というか気品に圧倒される。逆に贋作であれば奇を衒(てら)っていたり、ひね媚(こ)びたいやらしさが感じられるものである。
 昔とった杵柄(きねづか)ではないが、この経験を活かせないものか。事件取材ではないのであちこち飛び回る必要もない。すなわち伝記というジャンルである。だが30年以上ものブランクがある。現在の人気陶芸家などとんと知らない。もう1度一からおさらいである。
 というわけで、必要に迫られてインターネットのオークションを眺めていたら、とんでもないことが分かった。オークションにはすでに物故した大御所から新人まで幅広い出品がなされているが、加藤唐九郎や荒川豊蔵などの大御所だと数百万の値がつく(はずである)。ところが9割がた2〜3万の値段がついている。これがどうひっくり返って見ても真っ赤な贋作なのだ。
 焼物には作家が銘を彫ったり書いたりするが、これがまた実にお粗末な模倣である。どうも西日本の方に贋物を大量生産する組織犯罪業者がいるようで、中国か韓国で造らせ輸入しているのではなかろうか。
 金銭抜きのままごとなら腹も立たないが、善意の人を欺(あざむ)く行為である。さらにひどいことには、これを買っているのが明らかな業者だということだ。なぜ判るかというとオークションでは1点買うたびにポイントがつく仕組みになっていて、300点も400点もポイントのついた連中がせっせせっせと買い込んでいる。一般の愛好家にそんなことができるはずもない。
 偽物を大量に仕入れておいて、骨董(こっとう)をかじり始めた資産家のじいさんにでも売りつけようという魂胆なのであろうが、これはれっきとした犯罪である。
 根強い人気は魯山人だが、カタカナのロという簡単な銘を彫るだけの魯山人作品には偽物が特に多い。有名な銀座の骨董商が鑑定し本物には箱書をしているが、箱だけ本物で中身が偽物というのもある。
 この骨董商に電話をしてみた。「そうなんですよ。われわれも困り果てています。今の高度な印刷技術では箱書ですらコピーできますからね。警察に届けても、知らずに売ってしまったといえば刑事事件にはならないんです」。
 昔は焼物の贋物といえば、中国・韓国の骨董、柿右衛門、鍋島、古九谷などに限られていて、一般庶民が贋物に引っ掛かるということはあまりなかった。
 インターネットオークションの怖さは、現物を見ないで買うところにある。魯山人の端物だと10数万で買えるが、ブランドバッグや貴金属と同じ感覚で贋作を掴(つか)まされているごく一般の主婦層が結構多いのではなかろうか。

千葉県:臥龍



 腰折れ俳句(12) 


 まつ風が冬の扉を開けてゆく

 会ひし日も別れたる日も時雨(しぐれ)けり

 橙酢(だいだいす)牡蠣(かき)に海鼠(なまこ)にたっぷりと 

 葱(ねぎ)伸びし分影法師伸びしかな

 クリスマス皿は揃ひの空の色






 木のスケッチはやめられない。木登りやら焚火(たきび)やら子どもの時から、親しんできたこととつながっているのだろう。
 木登りも焚火もしなくなって、そのぶん木と関わっていたいのかもしれない。
 断言しよう。木の姿はいつだって美しい。

熊本県:K.S.



 ぬか喜び 

頸損歴20年、C3・4・5、♂、69歳

 私は、介護保険サービスと障害福祉サービスを併用して生活しています。
 去る7月から、軽減対策による資産要件撤廃によって、障害福祉サービスの利用者負担上限月額が37,200円から9,300円になり、妻と二人で「助かった〜」と多いにホッとしたものです。
 ところが、介護保険と障害福祉を合わせた実質負担額は、軽減前と同額の37,200円の由で超ガックリ。そんな馬鹿な〜〜〜と、尚、行政に突っ込みましたが、説明するとややこしくなるので省略しますが、どうやら異なった制度を併用していることが原因のようです。
 私が65歳(介護保険適用年齢)未満であれば、軽減措置で負担が軽くなったのに……とサービスを必要とする原因は「重度障害」なのに、自動的に介護保険を利用しなければならない制度に疑問が燻(くす)ぶります。介護保険適用年齢に近い、障害福祉サービス利用の方はご用心あそばせ。
 介護保険制度と障害者自立支援制度の一元化が、どう進むか注目したいものです。


佐賀県:K.N.



 写真だより 


 横浜の知的障がい者施設に大日本プロレスがやってきた。施設の駐車場にリングを組み、プロレス教室に始まり、シングル1試合、タッグマッチ2試合で盛り上がった。





 笑い、悲鳴、場外乱闘、迫力に観戦者300名が大興奮! 1時間半があっという間に過ぎた。まさか、障がい者施設でプロレスを観戦できるとは夢にも思わなかった。実現した施設スタッフに拍手。ただ、その日の夜勤者は大忙しだったに違いない。




神奈川県:M.I.











【編集後記】



この編集後記を書いているのは11月下旬……“年女”だった今年も何だかあっと言う間に過ぎ、早や年の瀬を迎えてしまった感じだ。
 12月に、今からちょっと緊張気味の行事を控えている。中学三年生のときのクラスメイトとの忘年会だ。9月に18年ぶりの同窓会があったのだが、何だかんだと理由をつけ欠席(18年前も)。その後、Rちゃん(明るくクラスのリーダー的存在だった女の子)から市内で忘年会をやるので来ないかとお誘いを受けた。
 高校のときの同級生とは恩師とも付き合いが今でもあるのだが、なぜか中学校時代は年賀状でのお付き合いが一人いるだけ。別に仲が悪かったわけではない。少なくとも中三のクラスは一緒に修学旅行にも行き楽しかった思い出、卒業式でともに涙した記憶もある。私にとっては、実に卒業以来の再会となるわけだ。もちろん、私の車いす姿を誰も知らない。同窓会の幹事でもあったRちゃんは、理由を話すと驚いていた。
 皆さんは、同窓会デビューしていますか? 車いすになった時期にもよると思いますが……。私の気持ちの中に受傷20年経った今でも、ケガをする前の私しか知らない人の中に“車いすデビュー”する緊張感が存在することを改めて知ったのでした……。
 皆さん、どうぞ良いお年をお迎えください。次号も続けて瀬出井が編集を担当いたします。


 ※現在、藤田さんは体調不良のため、連絡が行き届かない場合があります。どうぞご容赦ください。ご投稿など、瀬出井か他の編集スタッフまでご連絡くださいますようよろしくお願いいたします。


編集委員:瀬出井 弘美







………………《編集委員》………………
◇ 藤田 忠  福岡県 E-mail:fujitata@aioros.ocn.ne.jp
◇ 瀬出井弘美  神奈川県 E-mail:h-sedei@js7.so-net.ne.jp

………………《広報委員》………………
◇ 麸澤 孝 東京都 E-mail:fzw@nifty.com

………………《編集顧問》………………
◇ 松井和子 和歌山県立医科大学
◇ 向坊弘道  (永久名誉顧問)

(2008.4.1.時点での連絡先です)

発行:九州障害者定期刊行物協会
〒812-0069 福岡県福岡市東区郷口町7−7
TEL&FAX: 092-629-3387
E-mail: qsk@plum.ocn.ne.jp

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