膀胱瘻にしている方へ(続報)
−知らないと損をする福祉制度− 「はがき通信」96号に情報として、『膀胱瘻にしている方へ…「ストマ用装具」の助成制度を受けていますか?』と掲載したところ、意外に問い合わせがあり、知らない方が多いことがわかりました。また、申請がスムーズにいかず、トラブルを起こしている方もいらっしゃいました。 私自身も100%確信が持てなかったので、制度に詳しい方に確認していただきました。その回答は、『「ストマ用装具」は、車イスと同様、国の「補装具制度」の品目で全国で使えるそうです。』ということで、やはり、思っていた通りでした。補助率は、所得税額によります。「日本オストミー協会」のホームページによると、1984年からオストメイトの人たちに対して身体障害者手帳の交付、ストマ用装具が給付と記載されています。膀胱瘻を造設していると、「膀胱機能障害4級」に該当(3級の場合もあるとか)します。私自身は平成7年に手帳の再交付を受けましたが、私が受傷した1989年にはこの制度はすでにあったわけです。知らないと損をします。皆さんも障害者福祉の手引のような冊子が発行されていると思いますので、(横須賀市は毎年度発行)役所でもらって使える制度がないか定期的に確認したほうがよいと思います。 それから、来年から施行される自立支援法では、ストマ用装具は日常生活用具になる予定とのことです。理由は、既製品、ディスポ(消耗品・使い捨て)なので耐用年数がなく、補装具の規定外となるためだそうです。自立支援法では日常生活用具給付事業は、自治体によるサービスである「地域生活支援事業」になります。先日行われた横須賀市の説明会によると、品目についての基準は国で決定するとのことでした。ただ、助成額が変わってくる可能性があるかもしれません。「見直しが行われる前に手続きを済ませたほうがいいかもしれませんね」という、アドバイスを受けました。来年の10月1日から実施される予定です。 以下、補足情報です。 自立支援法の施行にあわせて、補装具・日常生活用具の見直しが検討されています。今年の6月には検討会の中間報告が出されていて、現在も議論が継続しています。 この中で現在、補装具として市町村が医師の意見書や更正相談所の判定や意見を聞かず給付できるものは、日常生活用具になるとされています。(ストマ用装具の他に盲人安全つえや点字器などが含まれます) 検討会の資料等は、厚労省のホームページにもアップされていて見られます。また、上述の中間報告は、以下に掲載されています。 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2005/11/s1124-3.html 編集委員:瀬出井 弘美 バンクーバの新市長に頸損のサム・サリバン氏
11月20日バンクーバの上村君代さんから「昨日の選挙で、バンクーバ市の市長はカナダで初めて、頸損のサム・サリバン氏が当選しました。これまで10年ほど、市議会議員をしていた人です。」というメールが届きました。翌日、「サム・サリバン氏とはどういう方?」という私の問い合わせに対する上村さんの返信です。 「サリバン氏は個人的にお会いしたことがないのです。“quadriplegic” ということですが、写真で見る限り、少し残っている指の機能を使って電動をお使いのようです。今回は落選された市議会議員に、サリバン氏と同様議員を長期務めた方も頸損の方(本職は弁護士)がいました。10+1(市長)人の市議会の2人が頸損だったわけです。これもすごいですよね。カナダで唯一の例だったはずです。でも、頸損であることが特にニュースの材料になっていないところが、ここの良さですね。」 サリバン氏の情報がさらに欲しく、BCPA(BC州脊損者協会)のホームページをのぞくと、選挙キャンペーン中の市長候補者のサリバン氏と市議会議員候補者のティム・ルイス氏が写真入りで、公約についてインタビュー内容が紹介されていました。その写真によると、サリバン氏は50歳前後、C5かC6くらいでしょうか。バックレストなしの電動車イス使用のようでした。他方、ルイス氏は胸部をバンド固定したヘッドレスト付きの電動車イスで、年齢は少し上のようでした。BCPAの紹介でもサリバン氏の障害は“quadriplegic”のみでした。 さらにバンクーバ市議会のホームページを見ると、12月5日、市長サム・サリバン氏の就任演説が掲載されていました。また彼の履歴はつぎのように紹介されていました。 19歳のときスキーで頸椎を骨折、四肢麻痺となり、Simon Fraser大学からBusiness Administration の学位を取得、1993年から2005年までバンクーバ市議会議員、障害を持つ人々の福祉機器を開発する組織や障害を持つ人々の社会参加を支援する組織にも長年係わってきた方だそうです。 上村さんのメールにもあったように、バンクーバでは新市長が頸損者であることを取り立ててニュースにせず、またサリバン氏も自身の障害については触れていませんが、就任演説で「障害を持つ人々の社会参加に係わる過去30年以上の貴重な経験がなければ、今日ここで市長として演説していないだろう」と語っています。 2010年バンクーバ市は冬季オリンピック、パラリンピックの主催都市です。新市長の重要課題のひとつは、この巨大イベントの企画準備・開催でありますが、彼は世界的な選手のための数週間のスポーツ大会とするのではなく、あらゆる分野でより良い市とするために取り組みたいと述べています。 さらにサリバン氏は薬物中毒問題、ホームレス対策、クリーンで安全な街づくりにも積極的に取り組みたいと強調されています。確かにバンクーバはたいへん美しい都市ですが、訪問のつど、UBCから市内へ向かう際に通るブロードウエイのバスどおりは落書きやごみが目立ち、荒廃のきざしを感じていました。サリバン市政でバンクーバ市がどのように再生されるのか、また2010年の冬季オリンピックやパラリンピックでサリバン氏はどのようなリーダシップを発揮されるのでしょうか。バンクーバがさらに、より身近に感じられるようになりました。 編集顧問:松井 和子 呼吸筋麻痺者の喫煙行動と医療職の禁煙指導に関する研究
—頸髄損傷者を対象に— Ⅰ.はじめに 喫煙の有害性は多くの研究で実証されているが、なお喫煙者は多く、中には呼吸筋麻痺等ハイリスク群の喫煙者も実在する。本研究は呼吸筋麻痺のある頸髄損傷者の喫煙行動と医療職の禁煙指導との関係について明らかにすることを目的とした。Ⅱ.対象と方法 対象は、在宅頸髄損傷者17人である。訪問面接法あるいは郵送法(メールまたは郵便)とし、内訳は訪問面接で7人、電子メールで9人、郵送で1人であった。調査項目は基本的属性、喫煙状況と喫煙のきっかけ、禁煙の試みとそのきっかけ、喫煙のメリット・デメリット、現在の健康状態、ストレスとストレスコーピング、医療者による禁煙指導で構成された調査票を作成し、2005年7月から8月に調査を実施した。Ⅲ.結果 1.対象者の基本的属性と喫煙状況(表)
損傷部位は頸椎5,6番が多いが、喫煙の有無と損傷部位は有意な関係を示さなかった。 喫煙状況から喫煙群4人、禁煙群7人、未喫煙群6人とし、結果は3群別に分析した。 2.喫煙状況と喫煙のきっかけ 喫煙開始時期は、喫煙群2人が頸髄損傷以前の喫煙者であるが、禁煙群は全員が頸髄損傷後の喫煙者であった。 喫煙経験者を対象とした喫煙理由(複数回答)は、ストレス発散や気分転換が最も多く、次いで「喫煙所に仲間が集まるから仲間と交流するため」「1人前の意識(健常者並み)」であった。喫煙のきっかけは、リハビリテーションセンターでの交流の影響が示された。禁煙ディバイスの知識有りは半数以上であったが、両群とも禁煙用ディバイスの使用経験は皆無であった。 3.禁煙の試み・効果と禁煙理由 喫煙群の禁煙の試みは皆無であった。禁煙群の禁煙開始時期は、全員が頸髄損傷発症後であり、禁煙開始年齢は7人中5人が30代、うち4人は30代後半であった。禁煙のきっかけは禁煙群7人中5人が喫煙による身体的苦痛体験、次いで周囲の禁煙環境の影響であり、1人が禁煙効果有りであった。 4.禁煙の利害 喫煙のメリットはリラックス効果が最も多く、禁煙群7人中1人は「頸損以前の動作ができることに喜びを感じる」であった。他方、喫煙経験者11人中4人はメリットなし、また喫煙群2人は「メリットというより癖」であった。喫煙のデメリットは17人全員が「健康に悪い」であった。 喫煙群4人中2人は循環障害による身体症状が発症していた。また全体の半数近くに褥創、次いで痰が頻発し、加齢に伴い他症状も合併する傾向が示された。 5.喫煙とストレス・ストレスコーピング ストレスは身体的な要因が最も多く、次いで人間関係、仕事関係であった。喫煙状況とストレスの程度は有意な関係を示さなかった。対象者の大半が趣味や楽しみを持ち、喫煙群の2人はその中に喫煙を含んでいた。 6.医療職者による禁煙指導 医療職者の禁煙指導ありは喫煙経験者11人中4人であり、うち指導効果ありは禁煙群1人のみであった。「医師が喫煙動作をリハビリ訓練として行う」というのが1人であった。未喫煙群への禁煙指導はほぼ皆無であった。 Ⅳ.考察 喫煙者へ喫煙の有害性に関する指導は重要であり、医療者は禁煙支援の技術を習得すべき1)だが、本調査で頸髄損傷者が医療職から禁煙指導を受けたのは少数であり、指導の未実施が明らかになった。「『頸損はたばこを吸わない』という意識が医療者にあるせいか、医療者からの禁煙指導はなかった」という指摘からも、頸髄損傷者は喫煙動作が不可能と考える医療者もおり、禁煙指導の必要性が十分浸透していないと推察された。 さらにリハビリテーションセンターが喫煙のきっかけとなっていることから、喫煙動作が訓練のひとつ、あるいは入院中のストレス対処法や生きがいとして、医療者が頸髄損傷者の喫煙を肯定的に捉えた報告もある2)。 以上の医療職の対応は文献検索でも示された。医中誌WEBでは「脊髄損傷と喫煙」のキーワードで検索された文献はなかった。禁煙を対象とした研究報告も検索されず、反対に頸髄損傷者が自力で喫煙可能な喫煙用ディバイス開発を試みた研究報告が検索された3)。 他方、英文雑誌では脊髄損傷と喫煙をキーワードとした文献はPubMedで多数検索され、かつ脊髄損傷者の禁煙を研究対象とする文献も多数検索された。 米国雑誌では、呼吸筋麻痺のある頸髄損傷者の喫煙影響と禁煙の重要性を指摘し、まず禁煙指導としたのに対し4)、国内の関連文献では、喫煙の悪影響を指摘するものの、喫煙を嗜好品として肯定し、できれば禁煙5)という指導方法が採用されていた。 Ⅴ.結び 喫煙ハイリスクの頸髄損傷者17人を対象とした本調査結果より、以下の知見を得た。①頸髄損傷者17人中喫煙者4人、禁煙者7人、未喫煙者6人であった。②頸髄損傷発症後の喫煙開始者は、喫煙者4人中2人、禁煙者7人中7人、計9人であった。③喫煙のきっかけはリハ施設での交流があった。④喫煙経験者中禁煙用ディバイスの知識有りは半数以上だが、禁煙ディバイスの使用経験は皆無であった。⑤禁煙開始年齢は30代が多く、きっかけは喫煙による身体的苦痛、周囲の禁煙環境であった。⑥喫煙メリットはリラックス効果が主であった。喫煙のデメリットは全員が健康への有害であった。⑦喫煙者の約半数に褥創、次いで痰が頻発しており、加齢に伴い多くの症状を合併する傾向を示した。⑧医療職による禁煙指導ありは少なく、むしろ頸髄損傷者の喫煙は「生きがい」として許容する医療職の対応が示された。引用文献
1)高橋裕子他:禁煙指導の実際,14(3):389,日本呼吸管理学会誌,2005 2)神田敏子:脊髄損傷者のストレスとコーピング,解消の関係−長期入院患者を通して−:74‐76,第24回成人看護Ⅱ,1993 3)大高洋平他:C5頸髄損傷患者に対する新しい電動式把持装具の試み39(1):56‐59,リハビリテーション医学,2002 4)M.C. Hammond,他編:Yes, You Can! 脊髄損傷者の自己管理ガイド 増補改訂版,日本せきずい基金レポート02,23,2004、 5)脊損ヘルスケア編集委員会編:日本せきずい基金レポート08,脊損ヘルスケア 基礎編, 41,2005 国立看護大学校:M・M ひとくちインフォメーション
【教えたいことコーナー】 ◆おくりん坊 デジタル写真を10枚送ると3mb以上になり、困ることしばしば。そこで、大容量ファイルもあっという間に送れるWebアプリケーションがあります。音楽、写真、動画などに最適。 1.まずおくりん坊にログイン 2.予定のファイルをアップロード 3.宛先のメールアドレスを記入 4.先方がダウンロード 「無料ファイル転送サービスおくりん坊」 http://okurin.bitpark.co.jp/?miss=1 ◆四肢マヒ者の味方・声のメッセージ 手の利かない四肢マヒ者に好都合な1分間メッセージ(3分間も可能)。 パソコンのデスクトップ→スタートボタン→プログラムファイル→アクセサリ→エンターテイメント→サウンドレコーダー、これに録音したらデスクトップに保存して、メールを書いた後、その添付ファイルとして相手に送る。ただし、マイクロフォン(1000円くらい)をパソコンにつないで使う。 (以上、情報提供:編集顧問・向坊さん) ◆グリーティングカード 誕生日や記念日にお祝いのカードを贈ることがよくあります。ところが、手続きは複雑で困ります。 http://www.riversongs.com/ これは動画集のURLで、クリックするだけ。好きなのを選んで楽しんだり、友人に贈ったり、簡単な英語の勉強にもなります。 (情報提供:平川 昌輝さん) ◆本の紹介 『立った! ついに歩いた!』 −脊髄損傷・完全四肢麻痺からの生還− 2006年1月19日に「奇跡体験!アンビリバボー」(フジテレビ系列)で全国放映され、番組を見られた方も多いのではないかと思います。「立った! そして今ついに歩いた」として右近さんより何度か「はがき通信」へご投稿していただいた森照子さんのリハビリの記録が、昨年11月末に出版されました。 自転車による事故により頸椎を損傷して完全四肢マヒ者となった森照子さんが、幼なじみの右近さんよりリハビリを受け、退院後に自宅で、364日(元旦のみ休み)・1日6時間のリハビリに取り組み、まず電動ベッドの背もたれを上下する訓練にて起立性低血圧克服とベッド上で長座姿勢が保てるようになることから始め、それから前屈後屈訓練と横捻り訓練を1年以上途中で諦めることなく続け、不安定な場所での背もたれなしの端座位をリハビリ開始から1年半かけて成し遂げ、その半年後に立ち、とうとう事故2年5ヶ月後に森さんの命令で足が反応して、その後ついに1歩2歩と歩き出す、そしてまだまだ訓練は続く。 医学の定理・定説より、傷ついた神経でも「生き残っている神経は必ずある!」と信じて、諦めずに壮絶なリハビリに取り組む姿や森さんの人柄により集うあたたかな人々が書かれています。なお、第2巻は春に発刊の予定です。 「事故により首の脊髄に重い損傷を負い、瞬きだけとなった女性が、ただ ひたすら人としての尊厳を追い求め、在宅で凄絶なリハビリに果敢に挑み、ついに、立ち、そして歩いた! それは、“神経”という、神の領域への挑戦。『一生寝たきり』という医学の常識を覆し、希望とは、勇気とは、そして生きることとは何かを問いかける迫真の全軌跡!」(本の帯より) 右近 清 著 樹心社 出版 2100円(税込) 「樹心社・立った! ついに歩いた!」 http://www.jade.dti.ne.jp/~jushin/book/kyoiku/tatta-tuiniaruita.html 藤田 忠(編集委員) ◆障害者の差別撤廃へ、千葉県が全国初の条例案 全国初の障害者差別撤廃条例の制定を目指していた千葉県は、来年2月の定例県議会に条例案を提出する方針を固めた。 条例の名称は「障害のある人に対する理解を広げ、差別をなくすための条例」となる見通し。差別の多くが障害者への理解不足に起因しているとして、福祉や労働、教育などの分野で「なくすべき差別」を具体的に列挙する。罰則規定は設けない方向だが、悪質なケースについては知事が是正勧告や事案の公表をできるようにする。 障害者差別に関する法律は世界40か国以上で整備されているが、日本では理念を盛り込んだ障害者基本法があるだけ。千葉県は昨年7月に公表した「障害者地域生活づくり宣言」に基づき、県民から差別事例を募ったり、障害者やその家族らと意見交換したりしながら、条例案の検討作業を進めてきた。 差別事例のうち、「企業の会議で手話通訳をつけてもらえず、自身の考えを表明することもできない」ケースでは、企業側に平等確保の配慮が欠けているとして、「障害を理由に情報提供の拒否や制限をしてはならない」と条例に明記することにした。また、普通学級を希望する障害児に養護学校への入学を強要するケースも差別にあたることを盛り込む。 このほか、本人の意に反して入所施設での生活を強いることや、企業などの求人活動で応募・採用を拒否することなども差別事例としている。違反事例の当事者には、県庁内に設置する委員会が解決に向けた助言などを行う。 (情報提供:読売新聞 平成17年12月19日) 【編集後記】
昨年の大雪で停電がおこったときに、電気なしで使用できる石油ストーブが売り切れたそうです。真冬に停電したことを自分に置きかえてみると今使用している暖房機器のエアコンもファンヒーターも使えなくなります。いよいよ寒くなると車に逃げ込むしかないかと考えると入口の昇降機も使えず外にも出られませんし、屋内でもリフターやエアマットやベッドが可動しません。夏は夏でエアコンや扇風機は使えずにアイスノンは溶けます。考えれば考えるほどに四肢マヒ者にとっては電気なしの生活はあり得ないなと感じたニュースでした。 次号の編集担当は、瀬出井 弘美さんです。 編集委員: 藤田 忠
………………《編集委員》……………… (2005.7.25.時点での連絡先です) 発行:九州障害者定期刊行物協会 |
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