読書メモ(5)
『瘋癲(ふうてん)老人日記』(中公文庫)を読みはじめる。おもしろい。77歳のおじいちゃんが息子の嫁に懸想する。話の内容もさることながら、主人公と読者の距離をあやつる作者の距離が絶妙。日記だからたとえば登場する人物について説明することはできない。それをいかにしてわからせるか。説明でなく叙述でわからせる。ふきだすほどうまい。これはひろいものだった。大谷崎をつかまえてひろいものもないが。 * 『瘋癲老人日記』読了。前半の事実なのか妄想なのか判然としない部分のほうがおもしろい。結局嫁の颯子は、老人が想像したとおりの打算的な女で、ネッキングを20分させて300万円のキャッツアイの指輪をせしめる。いささか興ざめ。最後におのれの墓のお骨の上に颯子の足形を乗せようと考え実行するところで体調を崩して死んでしまうのだが、そのことを颯子は夫とともに精神科の医師に打ち明けてしまう。それが意外。それまでしうととさんざん怪しい関係を続けてきたのに足形ぐらいで騒ぐことはないじゃないか。 エクリチュールについていえば、秘密の日記もいまわのきわまでは書けないわけだから、最後はドクターのカルテでもって死亡の事実を簡単に記すのみかと思いきや、ドクター2人、看護婦ひとり、実の娘など数人の記録がおさめられ、芥川の「藪の中」ふうにしてある。やや通俗に堕す。連載時の枚数のつごうか。 挿し絵に棟方志功を起用した編集者はえらい。志功えがくところの颯子がとても肉感的。ネッキングしたくなる気持ちもわかる。 老人の性をまともに取り上げた作品は世界に類がないというからすばらしい。家族関係や人間の本音について「そういうこともありうるなあ」と教えられること数多。実用書のつもりで書いている気配あり。前立腺肥大や高血圧の症状に紙幅を費やし、薬品名が頻出するのは、啓蒙のつもりだろう。ただし、それらの情報はいまではすっかり古びているにちがいない。 編集委員:藤川 景(校正担当)
ひとくちインフォメーション
★ 本の紹介 「『お互いさま!』宣言」(A5判125頁) 定価¥1,400 太陽出版(TEL: 03-3814-0471) 石川大輔さん、石川ミカさんが監修、購読者の伊藤道和さんのエッセイも掲載されているそうです。 機会がありましたら、皆さん是非ご一読を! ★ 障害者ドライバーの割引、ETC利用時にも適用可能に 高速道路や有料道路などの身体障害者向けの割引が、来年1月20日から、料金所を一時停止なしで通過できるETC(ノンステップ自動料金収集システム)を利用した場合にも適用されることになった。日本道路公団など道路関係4公団が8月5日、発表した。 ETCを利用して障害者割引を受ける場合、使用するETCカードと車載器、車両を、それぞれの市町村の福祉事務所などを通じて各公団で登録。これにより、ETCゲートを通過する際に障害者の運転する車だと認識し、清算時に半額の料金を徴収する仕組みだ。登録手続きは12月1日からで、2年ごとに更新が必要。これまで発行していた割引証は廃止する。 ETC車載器をつけない車は、料金所で身体障害者手帳を提示すれば、割引証がなくても従来通り、割引が受けられる。 同公団などは、身体障害者手帳の交付を受けている障害者らに対し、1979年から通行料金を半額にしている。現在は本人確認のため、料金所通過時に障害者手帳を示した上で、割引証を渡す必要がある。このため、無人のETCゲートを通過すると割引が受けられず、障害者団体などから苦情が出ていた。 (情報提供:2003.8.5 読売新聞ニュース速報)
★ オーストラリア(ケアンズ)の障害者向けツアー オーストラリアの北部のケアンズという観光地で、障害者・高齢者向けの現地ツアーをはじめた菊池さんという方から、HP開設のメールがきました。まだまだ立ち上げたばかりで、これからどんどん煮詰めていく必要もあろうかと思いますが、リフト付きのバスをチャーターしてくれるみたいですし、一般のケアンズ旅行のパックでは組まれないような観光コースを体験できるようですから、興味のある方は是非、問い合わせてみてください。 僕もちょうど10年前、受傷する前にケアンズに行きましたが、のんびりとした良いところでしたよ。 ★ 車いす用チルト補助具「支えさん」(特許出願中) 【製品の特徴】 ・標準型車いすに取り付けできる ・車いすを任意の角度で固定できる ・補助具を付けたままで走行できる 【効 用】 ・起立性貧血の防止 ・座位姿勢保持が困難な人の姿勢保持に (少し傾けることで重心が後ろに移動し、仙骨座り<骨盤の後傾>を防止) ・体圧分布を変化させることで褥そう予防 ※チルト:車いすの角度変化 [本製品に関する問い合わせ先] (株)西岡鉄工所
担当:西岡(圭)
愛媛県新居浜市多喜浜字北浜76-12 TEL: 0897-46-0303 E-mail: nishitek@dokidoki.ne.jp 【編集後記】
10月21日現在購読者数519名、資金残高598,239円です。 郵便を配達してくれているお兄さんがやってきて、「ご要望、ご意見など何かあったらお聞かせください」と言うので、私は車いすだし、ここはポストまでが遠くて出しに行くのに大変なんですと伝えました。すると、お兄さんはわかりましたと返事をして帰ると後日、“郵便があります”という手作りの札を作ってきてくれて、「郵便があったら、これをポストにかけておいてください。玄関にでも置いておいてくだされば持ち帰りますので」と。 ささいなサービスかもしれませんが、すぐに対応してくれたそのお兄さんのやさしさが、心をホットにしてくれた出来事でした。 次回の編集担当は、藤田忠さんです。 編集委員:瀬出井 弘美
………………《編集委員》……………… (2003.11.25.時点での連絡先です) 発行:九州障害者定期刊行物協会 |
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