はがき通信ホームページへもどる No.164 2017.4.25.
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<特集!四肢マヒ者の排便>


 今号の「特集」は、「四肢マヒ者の排便」です。多くの方より排便の悩みが寄せられており、何か解決への糸口を探れないかと、ご投稿いただいた方の経験談をご紹介させていただきます。





 特集 乳酸菌で有形軟便 

68歳、C5損傷、受傷歴30年

 「Fさんの便は軟便と泥状便のあいだよ。これがFさんのふつうの状態」と高齢の訪問看護師が辞めるにあたって新しい看護師に引継ぎをする。2015年夏のことだった。それが約数ヶ月後には健常者の便に近くなった。いかにしてそれが可能になったか。頸損30年の排便をふりかえって、ようやく健康的な大便にたどり着いた道筋をたどってみたい。



 (はがき通信・兵庫頸髓損傷者連絡会 合同シンポジウム「四肢麻痺者の排泄」から。この図にはないが、普通便の下に有形軟便があって、わが訪看はこれが最上という。)


 ◇排便はベッド上、左側臥位

 たしか所沢の国リハ病院でおこなっていた方法だとおもう。左側臥位になったら尻の下に45リットルのゴミ袋をさしこみ、水様便などが流れ出さないようにトイレットペーパーを敷き込んでおく。便が出てきたら袋の中に落としていく。この排便法をわたしは「国リハ方式」と呼んでいる。家ではわたしが工夫した2枚のフラットを貼り合わせて作った大きなおむつ「2倍紙おむつ」をベッド上に常に敷いている。万が一の失禁に備えてだ。ゴミ袋から漏れた便はこの2倍紙おむつで防御される。こういう体位だから訪看がべつの看護師あるいは看護学生にわたしの便の性状を見せることができる。

 ◇アローゼンからカマとラキソへ

 はじめの下剤はアローゼンだっただろうか。あまりよくおぼえていない。1年ほどの入院生活ののち在宅生活になったが、1日おきの排便とアローゼンは変わらなかった。しかしどんな薬にも体は慣れていき薬効は薄れていく。そのうちホームドクターの指示でカマ(酸化マグネシウム)とラキソベロンに変わった。カマは毎食後、ラキソは排便前夜数滴。そして排便当日レシカルボンという座薬を挿入(最近は新レシカルボン座薬というらしい)。直腸内に入れると、主成分である炭酸水素ナトリウムが溶けて炭酸ガスになり、そのいきおいで便を排出する。まあ「人工おなら」といったところか。わたしはこれを1回に3個入れる。3個も必要ないのかもしれないが、入院中から3個だったから、こわくて減らせない。
 退院当初は1日おきに排便、入浴をしていた。30年前のことだから社会資源は何もなく、亡妻がケアに当たっていたが、半年ほどでその体制は破綻(はたん)した。妻が倒れたのだ。必死になって訪問看護をしてくれるところを探していたら、「在宅看護研究センター」という日赤病院の看護婦3人が病院を辞めてつくったボランティア団体を区の看護婦が教えてくれた。区の保健師も「訪問指導」という名目で週に1度来てくれることになり、一息ついた。
 1日おきでは看護するほうもキツイということで、このころから月・水・金の訪問になった。内容は排便と入浴で2時間。排便のとき摘便をしたり腹を押したりして血圧を上げるから大汗をかく。その直後にシャワーチェアに移って浴室へ行くのだが、一気に血圧が下がってしょっちゅう失神する。失神したなと看護師が気づいたら、わたしの両足首をもって挙上してもらう。最近は排便がスムーズにいくようになるにつれて、あまり汗もかかなくなり、失神も減った。

 ◇松井レポートを転機に有形軟便へ

 「はがき通信」153号(2015.6)に下剤も浣腸も効かなくて困っているという「悩める排便」という投稿があった。「はがき通信」の誰かからSOSの投稿があったら、誌友は全力をあげてその解決に当たらなければいけないと考えているわたしは、ネット版「はがき通信」の「四肢マヒ百科」に若干の投稿は蓄積されているものの、あらためて排便特集を組んではどうかと編集担当者に進言した。
 だが、もうその答えは131号(2011.10)に掲載された松井和子さんの「けい損者の排便管理と便秘」に答えがしめされている。
 それによると、ある排泄リハビリテーション科医師が「3日に1回などと定期排便や失禁を恐れて便を出し切ることに拘るけい損者に対し、定期的に排便する必要性はあるのかと問い返し、便をすべて出し切ろうとすると、結局、下剤に頼らざるを得ないし、しかも下剤は量が増えていくばかりで切りがない」と述べている。さらに同医師は「けい損者は便を出そう、出そうとしすぎる傾向から、刺激性下剤(アローゼン、ブルゼニド、ラキソベロン、センナなど)に頼りすぎるのではないか」と、けい損者の下剤に頼りすぎる傾向をくりかえし危惧されていた、とのこと。(注:ブルゼニドは、プルセニドともプルゼニドとも。)
 さらにべつの便秘外来を担当する医師は、「頑固な便秘にも基本的に下剤は使わない、なぜなら下剤をいくら服用しても便秘を根本的に治せないから、便秘を治すのは、腸管の蠕動(ぜんどう)運動(収縮)をリズミカルに促進すること、結論的には自律神経のバランスを整えることだが、便秘治療の秘密兵器として乳酸菌を主成分とする整腸剤を処方し、治療効果をあげ、現在予約は3年待ちとのこと」とある。
 わたしはショックを受けた。医師から処方された薬を疑ったことなど一度もない。ラキソがそんなに強い薬だったなんて。さいわい昔ホームドクターからもらったビオスリーという乳酸菌整腸剤があった。「飲んでも飲まなくてもどっちでもいい薬です」といわれていたから残っていたのだ。それを飲み始めると便がいっそう軟らかくなったが、これは効果が現れているのだと解釈し、カマとラキソの量を減らし、ひとまずビオスリー服用前の状態に便を戻した。微調整をつづけたのち、結局カマとラキソの量は約半分に減らせた。ホームドクターにその旨を伝えると、「勉強になります」と頭を下げた。だが便の性状は変わらない。
 わが家を訪れる訪看もビオスリーの効果には目を見張ったが、ほかの訪問先の患者にいっても、なかなか長年の慣習は変えがたいようだった。今のところ水曜日・金曜日の排便に備えてカマ(0.5グラム)3袋・ラキソ5滴、月曜は1日分多いからカマ5袋・ラキソ7滴だ。
 《習慣的に下剤を飲むようになるのは、非常に危険です。下剤は便だけではなく、腸内のあらゆるものを強制的に流し出してしまいます。 必要な腸内細菌が排出されてしまった結果、免疫力が落ち、病気にかかりやすくなってしまうのです。》そうはいわれても下剤を全廃することは難しい。それと専門家に逆らうようで恐縮だが、下剤が腸内のあらゆるものを流し出してしまうというのは、大げさではないか。内視鏡検査のさいはそうするようだが。

 ◇腸内フローラとラクティス

 ちょうどこのころから腸内フローラという言葉がはやりだした。バランスのとれた腸内細菌の状態がお花畑のように美しいという意味のようだ。腸内には善玉菌と悪玉菌、それに日和見(ひよりみ)菌というのがいてバランスをとっているのだが、日和見菌は、善玉・悪玉どちらかの勢いが良くなるとそちら側を応援して量が増える。だから善玉菌を増やしておかなければならない。善玉菌を増やすには乳酸菌、つまりは発酵食品を多く摂らなければいけない。腸内細菌は小腸にもいるが、ほとんどは大腸に存在する。
 それと欠かせないのが食物繊維。戦前の日本人は食物繊維の多い食事をしていたので1日約350グラムの便を出していたが、いまや150グラム、女性にいたっては80グラムだそうだ。頸損がどうのというよりみんな排便困難なのだ。
 わたしはわが敬愛する藤田紘一郎先生の『乳酸菌生活は医者いらず——かしこい腸に育てる、最新・腸内細菌の話——』(三五館、2013.5)を読んでみた。驚くべき啓蒙書だった。《私たちの体や心の健康を左右しているのは、腸細胞と腸内細菌です。》腸内細菌の数は1000兆個。 腸内細菌は食物の分解をたすけ、ビタミンや脳内幸福物質のセロトニンやドーパミンを合成する(幸福物質は腸で作られるのだ)。それらを吸収し、全身に運ぶのが腸壁に存在するいろいろな「腸細胞」。こちらも腸内細菌と同じぐらい多く、腸壁や腸粘膜にびっしり存在する。《健康な人間の腸内には総量およそ1500グラムの腸内細菌がいます。》大便の約半分が死んだ腸内細菌と生きた腸内細菌。われわれは大便を食物のかすだと思いがちだが、食物のかすは大便の15%に過ぎないそうだ。
 藤田先生いわく、便秘にも下痢にも「乳酸菌生成エキス」が有効であるとのこと。これは「ラクティス」という商品名で売られている。安いものではない。わたしはビオフェルミンでもヤクルトでも同じだろうとおもっている。

 ◇夜納豆とオリーブオイル

 テレビでは健康番組がはやっている。熱心に見ているわけではないが、専門医が「これがいい」といったものは試している。ある医師が、「納豆は朝食べるより夜のほうがいい」といったので、さっそく実行。驚いた。翌日の便が普通便になった。しかし普通便ではやはり訪看が出しにくい。かといって下剤を増やしたのでは意味がない。そこでまたテレビの一場面が頭に浮かんだ。イタリア娘に「便秘はしませんか」とえらくぶしつけな質問をすると、彼女らはあっけらかんと「しないわよ。だって毎日オリーブ油をたくさん摂っているもの」という返事だった。そうか、すべりをよくすればいいのだ。
 以来、排便前日には夜納豆をワンパックとオリーブオイルを10cc。訪看が驚いたのなんのって。「バナナ3本出ました!」わがことのように喜んでくれた。
 ただ一つ問題が生じた。わたしは糖尿病で、1日1300キロカロリーの食生活を営んでいる。納豆1パックは80キロカロリー、油1ccは9キロカロリーで10ccなら90キロカロリー。腹がせり出してきた。
 訪看は、ほかの便秘組にもわたしの方法を説得し、多くの便秘組の排便を改善した。そのたびに「Fさん、ありがとう」と心の中でつぶやいているそうだ。

 ◇温熱治療器、それに排便のツボ

 訪看は月・水・金の10時からだが、冬期は9時半から30分は温熱治療器で腹を温めておく。効果大。それからこれは誰にでも適用できることではないが、左側臥位になったとき、凝った右肩のツボをもんでもらうと排便が促進される。過反射の強いひとに向いているとおもう。はじめのコロコロ便が出たあと凝りをもむと、それだけでどどっと有形軟便が出てくる。通常レシカルを入れてから終了まで1時間かかるが、30分ぐらいで終わってしまうこともある。ただしガス抜きはむつかしい。シャワーチェア上でガスが出るとヒヤッとするが、たいていはガスだけ。大便が多少出ても風呂場だから流してしまう。

 ◇専門医にひとこと

 松井レポートの冒頭に出てきた排泄リハビリテーションの医師は、「便を出し切ろうとする必要はない」とのご意見だが、これは在宅頸損の生活実態を知らない発言だといわざるを得ない。訪看が帰ったあとで便が出たらどうするのか。ヘルパーに後始末をさせることはむつかしい。慣れてないひとにしてもらうのもいやだ。この医師はおそらく入院中の頸損のことしか頭にないと思われる。

東京都:A.F.

●No.131「けい損者の排便管理と便秘」 



 特集 排便、私の場合 

男、65歳、C4、頸損歴31年

 排便は、週に2回、ベッド上で訪問看護婦さん2人による摘便で行っている。当日は、朝9時開始、最初のバイタルチェック後、排尿の次に、排便を行い、次の入浴へと続いていく。
 1回目は、月曜日で、単に肛門近くまで下っている便のみを摘便する。便は、まったく無しの場合と、そら豆の大きさが数個の場合、そして多いときにはピンポン玉1個程度とさまざまである。10分ほどで終わってしまう。
 2回目は、木曜日で、1週間分の便のほとんど全部を摘便する。だから、全部を摘便するために、前日の水曜日の16:30に下剤(プルセニド3錠、酸化マグネシウム錠1錠)を飲む。当日は朝一番にコップ1杯分の牛乳を飲む。大部分の便はお腹のマッサージをすることで、スムーズに下ってくる。しかし、厄介なのは残りの便とガスだ。これが残ると、途中での失禁となってその処理がさらに厄介になるからだ。お腹をさすったり、叩いたり、体をひっくり返したりしていてくださる。看護婦さんのひたいの大量の汗から、悪戦苦闘されているのがわかる。終わりの合図は便汁が出ることらしい。ここまでの所要時間は40分程度だ。便の量は看護婦さんの握りこぶしで4〜5個分だ。
 便のコントールは極めてうまくいっていると思う。途中失禁で困ったということはほとんどない。うまくいっている理由の1つは、看護婦さんの汗まみれのがんばりだと思う。日ごろから、心の中では感謝している。他は排尿方法と散歩そして食事だと思う。
 排尿方法は「圧迫殴打」だから、言わば、日に何回もお腹のマッサージしているようなものだ。散歩は体全体を上下に振動させるから、便の降下に役立っているのではないかと思っている。食事は繊維質の多い食物を摂るように心がけている。

 福岡市:Y.I.



 特集 盲腸ポート造設から6年目の近況報告 


 以前に、「盲腸ポート造設の経過報告」(143号)  「初めてのガストロボタン交換のご報告」(149号) をさせていただきました福島のSです。今回は「四肢マヒ者の排便」についての特集ということですので、盲腸ポート造設から丸5年の経過報告と、主観的ではありますが盲腸ポートの現状的なことを少しだけお話させていただきたいと思います。
 まずは盲腸ポート造設から丸5年、6年目に突入した現在の経過報告ですが、今のところ順調と言って良いのかと思われます。排泄はほぼ1日置き、午前中、通常は朝8時半にヘルパーさんが来てからスタートするので朝食はとりません。歳と共に増えていくサプリ等や水分は朝早くに飲んでしまい、基本、排泄前には何も食べないようにしております。
 そんな食事面のことも含めて相変わらず試行錯誤は続いておりますが、ベッド上で盲腸ポートから浣腸液を入れ(現在120ml弱)、歯磨きやお腹をさすってもらったりしながら、苦しくなってきたらリフトにぶら下がってトイレに直行。リフトにぶら下がったままトイレの便座に座り、そこで排便、戻ってくるまでに約1時間前後、という私の排泄スタイルは変わっておりません。時間はもう少しかかることもありますが、ほぼ予定内に終わります。肉芽も最初の1度きりだけで収まっておりますし、それほど浸出液が出ることもないのでガーゼ交換も1日1回で問題はありません(普通は1日2回のようです)。
 ただ私自身ある程度体力を要するので、加齢を痛感するとともに、いつまでこのスタイルでやっていけるのだろうかという不安は常にあります。「最近はストーマにされる方が誌面でも多い」というお話をお聞きしたばかりなのですが、まだ深刻ではないにしろ、いざとなったらストーマ、という覚悟が私の心の片隅にはあります。排便をよりスムーズに、私の場合は具体的に「排便時間の短縮、介助者の労力と時間の軽減」ということを望んでの改善策として、当初は確かに「盲腸ポート」か「ストーマ」か悩みましたが、位置付けは明らかに違います。ストーマはあくまでも最終的な処置であり、今はできるだけ盲腸ポートで頑張っていきたいと切実に思っております。今後どうなっていくのかまったく分かりませんが、歳を重ねるごとに、現状維持に全力投球ですね。
 また、とても残念なご報告です。私の知るところでは、東北・関東で唯一「盲腸ポート」造設手術を行っていたO市立総合病院ですが、今はもうやられていないとお聞きしました。私が最後の患者くらいだったのかも知れません。ガストロボタンの交換もそこでお願いしている私としては、今後のことを考えるととても不安になります。実は、まだ予約はしていないのですが、今年2回目の交換を予定いたしております。
 それでも今思えば私はラッキーだったのかも知れません。私はこれまでの経緯と月日を経過してみてようやく「盲腸ポートを造設して良かった!」と言えるようになりました。「幸いにもなんとか通える範囲にある東京に盲腸ポート造設手術をしている病院があった、ということが私にとっては重要な決断理由の一つ」であると前にも申し上げましたが、どんなことであれ、できるだけ近くの病院で、という思いは誰でも同じはずです。
 これでますます「盲腸ポート造設」を決断する方は少なくなっていくように思います。一人一人合う合わないということは確かにあります。「盲腸ポートは時間経過とともにどう変化するのかが重要」という課題は今もなお残されていますが、私たちにとって選択肢が少なくなっていくということはやはり残念なことだと思います。
(2017. 3. 15.)

福島県:T.S.




 特集 ストーマ造設手術後のこと 


 私は排便困難と腹の膨満解消のため、昨年の9月にストーマ(人工肛門)造設の手術をし、運よく目的は達成されました。ガスがよく抜け、腸の動きがよくなったのか?有形の便がほどよく排出され、摘便の苦痛から解放されました。また、血圧の変動が少なくなり、時間の余裕ができました。
 しかしながら、ガスの匂いが少し気になります。パウチ(便を貯める袋)はガス抜きの付いたものを使用しており、活性炭を通して少しずつ排出されます。排出されたガスは服の内側を通って首元の襟を通過して私の鼻を直撃するのです。本人ほど周りの人には気にならないようですが……。また、ガスがパウチに溜まったときに膨れるので、それを目立たないようにするための洋服選びにも悩みます。
 手術後半年が経過しましたが、運よく肌の荒れや便の漏れもなく、大きな問題は発生していません。これからストーマ造設手術を考えておられる方、メリットとデメリットおよびリスクをよく調べた上での手術をお勧めします。

●No.161「ストマ造設(人工肛門)の決意」

広島県:Y.O.

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