はがき通信ホームページへもどる No.145 2014.2.25.
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 リーズ大学障害学センターへの留学 


 みなさま 
 「はがき通信」の懇親会に、ときどきお邪魔させていただいておりますT大学看護学部のS.Hです。2012年の8月から約11ヶ月、イギリス中部にあるリーズ大学の障害学センターに留学していました。今日は、ほんの少しだけ、リーズでの出来事をご紹介できたらと思います。
 1990年にコリン・バーンズ教授が設立したリーズ大学の障害学センターは、毎年各国からの留学生を受け入れています。リーズ大学のセンターは障害学の世界的拠点の一つであり、これまで日本からもたくさんの学生や研究者が留学してきました。私が過ごした2012年8月から2013年6月のタームは、私以外に日本人はおらず、また例年より留学生の数も少なめでしたが、それでも国際色豊かな環境で勉強できたことは、大変いい経験となりました。
 障害学という研究領域については、日本でも関連する書籍が出版され、よく知られるようになってきたと思います。イギリス障害学は「障害の社会モデル」を提唱してきました。「障害の社会モデル」とは、イギリス障害学の創始者であるマイケル・オリバー教授(ご自身脊損者です)が1970年代に理論化した考えで、障害を「インペアメント」と「ディスアビリティ」の二つの次元にわけて捉えるところに特徴があります。「インペアメント」とは手足の一部あるいは全部の欠損、または肢体、身体の器官・組織に欠陥など、個人がもつ機能や能力に注目した概念で、もう一方の「ディスアビリティ」とは、「インペアメント」をもつ個人が被る不利益や制約は社会によってつくられたもので、その責任は社会に属するとした概念です。イギリス障害学(ディスアビリティ・スタディーズ)は、「障害」を個人の健康、資質や能力の問題=「インペアメント」として扱うのではなく、「ディスアビリティ」すなわち社会の問題だと考える立場を取っています。
 障害学は医学、看護学、リハビリテーション学、社会福祉学などと異なり、当事者研究の色彩が強い社会学系の領域です。そのためか、大学院の学生や教員の少なくない人数が、障害当事者、あるいはその家族という属性をもっています。私のクラスメートやお世話になった先生方の中には、視覚障害、歩行障害、言語障害、四肢障害、学習障害、慢性進行性の疾患をもつ方がいらっしゃいました。留学してくる学生や、研究者の出身国やバックグラウンドもさまざまです。2012年度の大学院留学生の出身国を挙げるだけでも、英国人の他にジンバブエ、トルコ、台湾、カナダ、ルーマニア、スウェーデン、ギリシャと多彩です。そして彼らの留学前の職業も学生だけでなく、障害者運動の活動家、詩人、ソーシャルワーカー、障害児教育の教員、看護師、政府系機関のエコノミスト、ジャーナリスト、NGO職員など、多様な個性をもつメンバーでした。
 大学院の授業は、いつも窓がなく、狭い3階の教室でおこなわれていました。必ずしも居心地のいい場所ではなかったのですが、建物にはスイッチで開くドアとエレベーターがあり、また、教室のとなりに車イス用トイレがありました。今、これを書きながら、主に授業を担当していたB先生とS先生(イギリスでは教授でもファーストネームで呼ぶのが普通なので、‘コリン’と‘アリソン’と言った方がしっくりきます)が、コーヒーを片手に教室に入ってくる様子を思い出しています。お二人とも気さくだけれど、指導は厳しく的確で、ゼミ中の議論も異なる意見をぶつけ合うという雰囲気で進みました。
 障害学のゼミに、Rさんという英国人の女性がいました。ウェールズの首都、カーディフの出身で、ご自身車椅子ユーザーです。マンチェスター大学で政治学を専攻、卒業後すぐにリーズ大学の修士課程に入学し、障害学を学んでいました。写真がRさんです(大学のパブで撮影しました)。



 彼女は、13歳から障害者運動に関わってきた若き活動家です。リーズ大学には、国際的にも有名なこの障害学センターがあるというのに、大学内のアクセシビリティを向上させるための活動をおこなう団体がありませんでした。彼女は入学してすぐ、リーズ大学の学生部会の一つとして障害者のためのアクショングループを立ち上げ、リーダーとして会をまとめていました。
 Rさんはもの静かで、ゼミの中ではあまり発言をしなかったけれど、なんとなく漂う自信のようなものが、いつもオシャレな彼女をより素敵に見せていたように思います。彼女によると、何でも自由に挑戦させてくれたご両親の影響と、私立の普通高校に通ったことが自信につながったということでした。勉強が好きだった彼女は、普通高校に進学しました。しかし、車椅子で公立の学校に通うには、介助者をつけなければならないという決まりがあり、いつも中年の介助者が側にいる彼女は、学校の同級生たちとなかなか友達になれなかったのだそうです。悩んだ末、私立学校に転校しましたが、その学校では、当然のようにクラスメートたちが友達として助けてくれ、ごく普通の学校生活を楽しむことができたということでした。
 そんな恵まれた環境で育ってきたように見える彼女の修士論文のテーマは、「障害者への暴力」についてでした。イギリスでは障害者の権利を求める運動が盛んで、社会で活躍する障害者の方々もたくさんいらっしゃいます。しかし同時に、頻発する社会的マイノリティに対する暴力が深刻な社会問題となっているという点も見逃してはいけないと思います。イギリスで問題になっているのは、差別的な言葉による暴力というより、むしろ身体的な暴力で、Rさんがこのテーマを選んだのも身近な友人が被害に遭ったからということでした。
 ところで、障害学の大学院授業の最終日、こんな出来事がありました。いつも通り教室の前でゼミの開始時間を待っていると、Rさんの介助者の女性が一人でやって来ました。「エレベーターが壊れていて、Rが3階に上がって来られない」と言うのです。この建物にエレベーターは一つしかなく、電動車椅子で3階に上がってくるのは無理でした。
 この日の授業を担当していたのは、身体障害のない講師の先生で、相談すると「コーヒーが飲めない教室は嫌だから、僕は授業をキャンセルすることにまったく反対しない」とのお答えでした。いくらなんでも、それはないでしょうということで(そんな雰囲気でもいいのかもしれませんが)、障害学センターの責任者でもあるB先生に相談に行くと、すぐに事務に掛合ってくれ、車椅子で入れる違う棟の教室を取ってくれました。B先生には視覚障害があるのですが、大学構内や慣れた場所の移動には特に問題がないので、まずRさんを含めゼミ生全員で移動し、後からB先生が歩行障害のある学生を連れて来てくれるということで解決しました。
 最終日に起ったこの小さな出来事は、私がリーズ大学で学んだことを象徴的に示しているようにも見えました。授業では、エンパワメント、アクセシビリティ、ソーシャルインクルージョンといった概念を取り上げ、議論したけれど、設立から20年経った今でも障害学のゼミが開かれる建物にはエレベーターが一つしかなく(ビジネススクールの建物の豪華さとは雲泥の差です)、講師の先生の対応も事務の対応も、やる気がなさそうでした。Rさんはこのくらいのことには慣れた様子で怒りもせず、落ち着いていましたが、私は違う教室を探すためにバタバタする以外にありませんでした。
 一方で、この日に限らず、B先生の配慮からは学ぶことがたくさんありました。引退が決まっていたB先生の授業を「古い」と批判する学生もいたけれど、理論的な議論などは、自宅で論文や本を読んで勉強できる範囲のことなのかもしれません。わざわざ出向いてセンターの創設者から学ぶ意味があるとしたら、それは、突発的に起るさまざまな出来事にその場にいる人びとがどう反応するかを見ることで、それが単なる言葉だけの議論なのか、あるいは日々の生活体験に根ざした思想なのかを観察するチャンスに恵まれることなのかなと思います。B先生もS先生もこうした事態への対応にブレがなく、お二人からは、さまざまな障害をもつ人たちの多様な個性を認めるためのマナーというようなものを教えていただきました。
 あっという間だったリーズでの11ヶ月を終え、今、私はイランの首都テヘランにいます。テヘランにある専門病院と協力して、自宅で暮らす脊損者の生活状況を調査する予定です。私自身は、一生かけてもB先生のような配慮ができる人間にはなれないかもしれませんが、考え考え、立ち止まりつつ、頑張ってみようと思っています。また機会があればイギリスでの出来事、そして、今いるイランでの出来事などをご報告させていただければと存じます。どうぞよろしくお願いします。

東京都:S.H.




全員参加企画『いいモノ見つけた!』〜9〜 



 [商品A]
 『ニトムズ 蛇口ハンドルレバー』
 取り付けると開閉操作が楽になり、握力がなくても水がちょろちょろ流れないようにキッチリ閉められます。取り付け方法は、水栓に商品をかぶせてレバーを回して固定するだけです(工具不要)。最大径47〜53mmまでの水栓に取り付けられます。ただ、凸部の間隔が20mm以上空いていたり、きつい傾斜の水栓は取り付け不可。
 700円ぐらい
 ニトムズ
 「ニトムズ 蛇口ハンドルレバー」 
 ※商品Aを取り付けて便利になったと喜んでいた2ヶ月後に、大型ホームセンターで商品Bを見つける。パッケージ裏を見ると水栓ごと交換できそうで、試しに購入。
 [商品B]
 『ワンタッチレバー』
 レバー式水栓に取り替えると開閉操作がものすごく楽になります。取り替えはプラス・マイナスドライバーを使い、5分で簡単にできました。他メーカーなど類似品はたくさんあるようです。
 400円ぐらい
 三栄水栓製作所
 「三栄水栓 ワンタッチレバー」


 編集担当:藤田 忠 




 「吸引問題考その2」への回答 

筋ジストロフィ、人工呼吸器使用

 「はがき通信」№144の「吸引問題考その2」を読んで自分の状況を書いてみようと思いました。

 ◇問題〈1〉 吸引等のできるヘルパーさん不足の問題について
 私が住んでいる県の状況を報告します。県が主催する喀痰(かくたん)吸引等研修は年に1回だけ行われています。第3号研修の場合、受講費用は保険料として約3,000円が必要になります。また、定員は100名です。県主催以外で第3号研修を行っている事業所が2つあり、株式会社が1つとNPO法人が1つで両方とも介護事業を行っています。以上は、県のホームページで調べた内容です。
 また、私の介護をしているヘルパーの状況ですが、私が利用している介護事業所が第3号研修を行っているのでヘルパーは事業所内で研修を受けました。ヘルパーの中には准看護師の資格を持った学生さんもいて、この場合は研修を受けなくても問題ないようです。

 ◇問題〈2〉 吸引自体の問題について
  (誌面版のみ掲載)
 

A市:M

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