はがき通信ホームページへもどる No.161 2016.10.25.
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 京都大作戦2016~野外フェス初参戦 


 7月3日(日)に、京都府立山城総合運動公園・太陽が丘特設野外ステージにて開催された、10-FEET主催の野外フェス「京都大作戦2016~吸収年!栄養満点!音のお野祭!~」に参戦してきました。
 頸髄損傷者である私が野外フェスに参戦したのは初めてで、夏の野外フェスということで不安も多くあり、覚悟する必要があります。頸損ゆえに必要な準備も数多くあります。暑さ対策が重要であることはいうまでもありませんが、体温が急上昇してしまったときに駆け込む療護室が会場にあるのか? 雨が降ったときはどうすればよいか? 会場までの交通手段やルートは?等、暑さ対策以外にも考えるとたくさんの問題が出てきました。京都大作戦のHPを見て車椅子でも入場できるのは知っていたのですが、細かいことを聞くために「車椅子で入場する方専用番号」に電話をかけました。エントリー抽選方式での申し込みであったため名前を登録しており、電話で名前を照会してもらい、どんな車椅子か、自分の障害のことなどを伝え、その他に分からないことを質問しました。救護室については、「エアコンがついているし、何時間でもいていいよ」という回答を得ました。雨に関しては「車椅子で観るところはありますが、そこは屋根がなくカッパで対応してほしい」ということで、カッパは持っていたのでこの問題もクリアできました。
 頸髄損傷の体温調整に関しては一応の知識は持っていますが、野外フェスとなると専門家の意見が必要だと考え、H大学の研究者で体温調節が難しいという特徴を持つ方々の温熱環境について研究されているM生先生にコンタクトがとれないか、東京頸髄損傷者連絡会のKさんに相談させてもらったところ快く応じていただき、連絡先を交換することができました。以下に、M先生からのアドバイスを4点紹介させていただきます。

 1点目:服装は白色の通気性のいいもので、皮膚の露出はなるべく少なくしたほうが良いとのことでした。半袖のほうが風を受けて涼しいかなと思っていたのですが、直射日光に当たらないほうがいいと教えていただきました。

 2点目:暑さに慣れることが大事だと教えていただきました。晴天時には毎日外出する(15分~30分程度)。これを繰り返し行うことで身体が暑さに慣れて、うつ熱を起こす危険性がいくらか少なくなるそうです。

 3点目:アイスノン、濡れタオルを使って体温を下げる。使い方としては首、脇の下、足の付け根に太い血管が通っているので、どこかに当てておくのがいい。また、当てたところを中心に介助者にうちわであおいでもらうのも効果的で、霧吹きを衣服や肌にかけ、うちわであおいでもらうのも効果は高い。

 4点目:飲み物です。大量発汗時には、0.1~0.2%の食塩と糖分を含んだ水分を摂ることが、有効と考えられています。スポーツ飲料が手軽ですが、1リットルの水にティースプーン半分の食塩(2グラム)と、角砂糖を好みに応じて数個溶かしてつくることもできます。飲み物の温度は、5~15℃冷やしたものが良い。飲料時間の間隔は、こまめにとるのが良いとのことです。

 会場までの交通手段とルートですが、最寄り駅までは電車で難なく行けますが、最寄り駅から会場までの移動は簡単にはいきませんでした。最寄り駅の宇治駅から会場までのシャトルバスが出ているのですが、車椅子は乗ることができませんでした。宇治駅から会場まで自走で行こうとすると約25分もかかるため、暑さのこと、雨のことを考えると車で行くほうがいいなと思いました。しかし、交通渋滞が起こること、アーティストが会場に入れない等、イベント運営の妨げになるから会場まで車で行くことは禁止されています。なんとか車で行くことができないか、主催者に障害ゆえの事情を説明して伝えたところ、『いいですよ』との回答を得ることができました。会場までの移動に福祉タクシーを予約しました。これで、行き帰りの交通も調整ができました。
 体温調節ができない頸髄損傷者が、紫外線が降り注ぐ夏の野外フェスに行くということで、最悪の事態も予測しておかなければいけません。そこで、熱がこもって体調が悪くなったときに対応してくれる病院がないか? 京都頸髄損傷者連絡会に相談しました。京都府立病院や、京都市立病院が対応してくれるのではないか?という回答を得ることができました。
 介助が必要な私にとっては、「どんな介助者を同伴するか?」ということも重要なポイントです。介助者は、自分が倒れても独自に判断・行動ができる人じゃないといけないと考え、体力・行動力・判断力を一番持っている人で、信頼ができる人にお願いしました。
 持っていく物を準備します。まず一番大事な飲み物ですが、スポーツドリンクの2リットルを2本、1リットルを1本、その中の2リットル2本は凍らせました。少しくらい溶けても、タオルを巻けばアイスノンの代わりになると考えました。1リットルは冷やしただけで、その他に500ミリリットルのお茶を常温で持っていきました。常温の飲み物を持参したのは、たくさんの冷たいものはお腹を下してしまう恐れがあるからです。次にアイスノン枕型を2つ、首に巻くタイプを2つ、シャーベット式スプレー、携帯型(首かけ)扇風機、霧吹き、コンビニで売っている氷を持って行きました。これらの持参品は、頸髄損傷者で野外フェスに参戦した経験がある方に聞いたりして決めました。また、傘や日傘を持っていくことは禁止されているので、雨が降った場合に備えてカッパを介助者共に準備。晴れのときの紫外線&熱対策としては、帽子やタオルでカバーすることにしました。
 そして、当日までにやっておいたほうが良いと、M先生からアドバイスを受けたことに「暑さに身体を慣らしておいたほうが良い」ということがあったので、暑さに慣れるために、晴れているときは積極的に外出し、できるだけ日光に当たり身体を慣らしました。
 万全な準備をして(?)迎えた当日。朝6時に起きて準備し、電車で現地へ向かいます。予約しておいた福祉タクシーで会場に到着、『万能札』という名の入場カードを見せ、いざ会場へ入場したのです!
●野外フェス会場入り口



 会場内で移動するときは、常にスタッフがついてくれたので迷うことなく、車椅子観覧スペースへ行くことができました。ただ、行ってびっくりしたのですが、問い合わせしたときは車椅子で利用できると聞いていた療護室が、テント張りでしかも畳が敷いてあるじゃありませんか! 電話したときは確かにエアコンがあると言われたのに、実際にはエアコンなんか影も形もありません。また、車椅子では段差があって登れません。スタッフに、車椅子で利用できると聞いたことを説明したけれど、「知らない」と一言で片付けられてしまい、どうすることもできませんでした。反面、問い合わせでは「ない」と説明を受けていた障害者が観る場所の屋根はなぜかついていて、雨に打たれる心配はなくなりました。
 その日の天気は曇りのち晴れで太陽が雲で覆われていたので、直射日光に弱い頸髄損傷者には最高の天気でした。とは言っても暑いのは暑い! でも、ここまで来たからには後戻りはできない! とにかく楽しむぞ!と覚悟を決めました。
●車椅子観覧スペース


 11:00から1組目のアーティストの演奏が始まったのですが、始まったと同時に一気にテンションが上がり、いきなり気分は最高潮になりました。この1組目に出演したアーティスト「WANIMA」との間に奇跡が起こります。でも、二度と起こらないであろう出来事が待っているとは、このときの私には予想できませんでした。
 京都大作戦というフェスは、源氏ノ舞台(メインステージ)と牛若ノ舞台(サブステージ)の2つのステージがあり、1つのステージが終わったら、もう1つのステージが始まるといった流れで進んでいきます。
 1組目の演奏が終わって、昼食を食べることにしました。フェス飯も楽しみの1つでした。飲食ブースに行くときもスタッフがついてきてくれます。30店舗くらいいろんな飲食ブースがあり、迷いに迷って京都大作戦バーガーを食べました。中はパテとチーズの上にベーコンがあって、その上にトロトロオムレツと九条ネギのトッピング。これが、まためちゃくちゃ美味しかったです! お腹もいっぱいになったところで、また車椅子観覧スペースに戻り、演奏を楽しみました。



 ところが、ここにきて問題が出てきました。15:00くらいから、ときどき太陽が顔をのぞかせるようになり、車椅子観覧スペースの私のいる場所にも日が当たるようになってきました。直射日光を浴びると体温も一気に上がり、最高で38.5℃まで上がりました。テントの裏側が日陰になったのでそこに退避し、アイスノンや顔に水をかけて休憩していました。
 その休憩中のことです。休憩場所の前にある通路を、向こうからあの1組目に演奏したアーティスト「WANIMA」が歩いてくるじゃありませんか! 動揺しながらも目が合ったので思わず会釈をすると、「WANIMA」も会釈してくれたのです! 一気にテンションが上がりました! もう痙性が起こりまくりでした! そしてそしてなんと! こちらに近づいて来て話しかけてくれたのです! そしてなんとなんと! 写真を一緒に撮ってくれたのです! 暑さでボーッとしているのか、興奮しすぎて放心状態になっているのか、自分でもわからないくらいにもう夢見心地でした。事故で受傷して以来、初めてよかったと思えた瞬間だったかもしれません(笑)。そして、体温もすっかり上がってしまったようでした(笑)。
●WANIMA最高!


 息切れしながらもなんとか休憩を繰り返しながら、無事に最後のアーティスト「10-FEET」まで観ることができました。帰りは主催者側の計らいで、退場口からではなく裏口から出してもらい、行列・混雑に巻き込まれることなく会場を後にすることができました。
 今回は幸運にも天候にも恵まれ、無事にこの野外フェスを楽しむことができました。しかし、療護室が事前説明とは違って、車椅子では利用できなかったことは大きな問題でした。何事もなく無事に帰れたことはたまたまで、天候やさまざまな条件の違いによっては、大変なことになっていたかもしれないです。今回、身体を慣らすために天気のいい日は外に出ていましたが、次回行く機会があれば、今度はわざと長時間日光に当たって体温を37℃や38℃にしてみて、そのときの体調がどう変化するのかを、自分が把握するということをしてもいいのではないかと思いました。もちろんリスクはありますが、自分の身体を知るため、試してみたいと思います。
 そして、やはり、野外ライブに行くときは何が起こるか分かりません。自分の意識があるうちは、介助者にあれこれ指示が出せると思いますが、意識を失いそうな状態に陥ったときは指示が出せなくなるので、事前に介助者と打ち合わせをしておくことも大事だと思います。しっかりと調査と準備をしていけば、頸髄損傷者でも野外フェスに行けると思います。皆さまも、ぜひチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
 最後に、今回野外フェスに行くにあたって、たくさんの情報やアドバイスをいただいた皆さまへ感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

兵庫県:Y.I.



 《編集部注記》
 I氏に「野外フェス」のご投稿のお願いしたところ、すでに兵庫頸髄損傷者連絡会の機関誌『縦横夢人』用に原稿を作成しておられました。有用で暑さ対策など、参考になる情報も多く、ご了承を得て転載させていただくことにいたしました。



 写真だより(オーダーメイドのジーンズ) 


 受傷前、ジーンズが好きでよく履いていました。受傷後は市販のジーンズは履くことができず、現在、かろうじて“gu(ジーユー)”のレギンスのデニムジーンズパンツを履くことができています。一度、頸損の男性の方が考案されたジーンズを購入したことがあるのですが、生地がごっつくて、股上も浅めで2~3回で履くのをやめてしまいました。
 今年の5月に東京で開催された合同シンポに参加した際、支援機器等のブースにオーダーメイドの洋服を作っている専門店が入っていました。そこで、軟らかく伸縮性のあるデニムで作ったジーンズを見つけ、その後、デザイナーさんに連絡を取りました。女性のデザイナーさんで、何と横須賀で開業していたことがあり、現在は郷里の福岡に戻られたそうです。
 そして、1カ月ほどで、オーダーメイドのジーンズが完成しました。



人工肛門にしたため、便を廃棄しやすいように、前の部分をマジックテープで全開できる仕様にしてもらいました。ジーンズに入っているのは、「エスプリローブ」アトリエのロゴで、その下に赤の飾りファスナーを付けてもらいました。



 興味のある方は、「アトリエ エスプリローブ」で検索できます。
https://espritrobe.com/ 

編集担当:瀬出井 弘美



 ☆★ ひとくちインフォメーション ★☆ 


 ★ 災害での障害者支援の現実は? 熊本地震の実態

 大規模な災害が発生したとき、障害者はどうなるのか? 4月の熊本地震が起きた直後から現地で障害者支援を続けている熊本学園大教授で弁護士の東(ひがし)俊裕さん(63)が、三重県庁で被災地の実態を語った。福祉団体や行政関係者ら約200人が、障害者が避難所から排除され、復興から取り残された状況に耳を傾けた。
 東さんは自身も車いすで生活し、内閣府の障害者制度改革担当室長も務めた。4月16日の熊本地震の本震で、熊本学園大は急きょ700人ほどの避難所となり障害者も約60人受け入れた。はじめ障害者は身動きが取れない状況だったが、車いすの人が床に降りて休め、介護者が入るスペースや動線も確保された。
 だが多くの避難所では、障害者への配慮がなく利用できなかった。パニックになった精神障害者が「避難所に置けない」と言われたり、行列に並べない障害者が支援物資を受け取れなかったりした。閉め出された障害者は、車中泊や崩れかけの住宅、アパートの一室などで過ごした。
 東さんは「震災直後は一般の人も遠くに避難できないのに、ましてや障害者が遠くの福祉避難所に行けるはずがない」と、避難所に障害者を受け入れる必要性を強調した。「復興の拠点となる避難所から障害者が排除され、支援の網からこぼれ落ちていた」
 熊本市の障害者は4万2千人だが、福祉サービスを受けているのは7千人で、サービスをまったく受けていない重度障害者が9千人いた。福祉避難所は1700人分程度しかなかった。東さんらは4月20日にボランティア団体「被災地障害者センターくまもと」を立ち上げ、約400人から相談を受け延べ3千人近くを派遣した。
 4月に施行された障害者差別解消法は、正当な理由のない障害者へのサービス拒否や制限を禁じ、負担にならない範囲で対応する「合理的配慮」を定めている。「災害時には障害者への配慮が抜け落ちてしまう。熊本県も熊本市も無頓着だった。避難所や仮設住宅のバリアフリー化が必要だ」と呼びかけた。              (永井啓吾)
 (情報提供:平成28年9月23日 朝日新聞)





【編集後記】


 この編集後記を書いているのはまだ8月で、暑い日々が続いている。この「はがき通信」が発行される頃は、姫路懇親会も無事に終わり、私の1年で一番好きな秋の好季節であることを祈る。
 さて、ストーマ(人工肛門)にしてから約10カ月、今のところトラブルもなく順調だ。「はがき通信」に原稿を書いたせいか、ストーマの相談を受けることが増えた。
 私は、ストーマに“カメコ”という名前を付けて、毎日話しかけている(笑)。自分の身体の一部なのだが、別の生き物(?)のようにも感じる。訪問看護師さんにも、相当変なヤツだと思われているだろう。実習生さんが同行したときも、「カメコが……」を連発し、??の実習生に「瀬出井さんはね、ストーマに名前を付けているから」と説明していた。
 「カメコ好きやで(なぜか関西弁)」と言うと、たまーにブ~ッとオナラで答えてくれる(笑)。ストーマにして便もガスもたまらないせいか、暑くても痛くてもハラが減るぅ~! 頸損になって、こんなに食欲を感じたことはないような気がする。低血糖があるので、要注意だ。再生医療で人工肛門にも括約筋が再生でき、排便のコントロールができるようになったら何とスバラシイことか!と思う。
 またまたお話は変わり、今年から8月11日が「山の日」となった。ナント私の受傷日なのだ。沢登りでの登山中の転落事故……その日が祝日となり、それも「山の日」になるなんて……。何とも複雑な気持ちだ。祝日になったおかげで、絶対に忘れられない日となった。
 次号の編集担当は、藤田忠さんです。

編集担当:瀬出井 弘美




………………《編集担当》………………
◇ 藤田 忠  福岡県 E-mail:stonesandeggs99@yahoo.co.jp
◇ 瀬出井弘美  神奈川県 E-mail:h-sedei@js7.so-net.ne.jp
◇ 戸羽 吉則 北海道 E-mail:toba@blue.ocn.ne.jp

………………《広報担当》………………
◇ 麸澤 孝 東京都 E-mail:fzw@nifty.com

………………《編集顧問》………………
◇ 向坊弘道  (永久名誉顧問)

(2015年2月時点での連絡先です)

発行:九州障害者定期刊行物協会
〒810-0001 福岡市中央区天神1-16-1毎日福岡会館7F
TEL:092-753-9722 Fax:092-753-9723
E-mail: qsk@plum.ocn.ne.jp

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